02


テーブルの上に置いてあった智紀さんのスマホが振動している。
それを手に取り液晶画面を確認してから智紀さんは俺に「ちょっとごめんね」と断り電話に出た。

「もしもし――。はい。――え、今ですか?」

仕事関係なんだろう。
喋り出す声を聞きながら俺は必死で頭の中を整理しようとした。
俺と智紀さんは男同士で、だけどセックスしている。
それは紛れもない事実だ。
智紀さんに出会わなかったら俺は男と……なんてことはなかっただろう。
確かに俺はノンケで、だけど智紀さんとセックスして。
それで智紀さんが俺のことを好き――……。

「いや、でも。友人が来てるんです」

妙に、耳に響いた言葉に、俺はハッと我に返っていつのまにか俯いていた顔を上げた。
途端に目が合う。

「ええ。……いえ、はぁ……」

智紀さんは俺に向かって小さく笑って、そして珍しく困ったように応対していた。
俺はさりげなく耳に触れ、そっと溜息。
"友人"って言葉に、反応してしまった自分がいやになる。
それが俺のことだってことは理解できる。
たださっき告白されて、智紀さんなら――……って俺なにバカなこと考えてるんだろう。
智紀さんが俺のことを――好きだなんてことすら信じられないのに。
俺と智紀さんが付き合うなんて、ありえないのに。

「わかりました。それは確認してからですよ。あとすぐには降りれませんから。はい――じゃあ」

またあとで、と電話を終える声に俺はまた俯いてしまっていたことに気づいた。

「ちーくん、ごめん」
「……え?」

なにが、ごめん?
さっきの告白のことか?
混乱する俺のそばに智紀さんが立ちあがり近づいてくる。

「なぜか迎えが来ちゃって」
「……あ……このあとの用事の?」
「そう。現地集合の予定だったんだけど、近くまできたから拾いに来たんだってさ」

その、ごめんか。
ほっとする自分に気づいて困惑する。
それを誤魔化すようにさりげなく智紀さんから視線を逸らした。

「じゃあもう出なきゃいけませんね」
「そうだね。ちーくん、送ってくれるって言ってるんだけどどうする?」
「送ってもらわなくても……え? 誰が?」
「晄人のことは知ってるだろ?」
「松原さんなんですか?」

智紀さんの共同経営者である松原さんとは一度だけ少し喋ったことがある。

「いや、そのおにーさん。紘一さんっていうんだけどね。今日はその人にちょっと仕事関係で紹介してもらうひとがいてね」

秘密だけど、いわゆるコネってやつ?、と智紀さんが片目をつぶる。

「そうなんですね。……えっと、俺は大丈夫です」

見ず知らずのひと、それも智紀さんが敬語を使うような目上のひとに俺が送ってもらうなんてないない。
智紀さんになにか言われる前に、本当に気持ちだけで、と重ねて断った。

「だよね。それに俺も可愛いちーくん人目にさらしたくないしなー」
「は? なに意味不明なこと――っ」

人目にって、俺なんか歩いてたって誰の目にも止まるわけないだろ。
思わず呆れて返そうとしたとたん、一気に目の前に智紀さんの顔が近づく。
息を飲んだ瞬間、唇が塞がれて舌が入り込んできた。

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