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「さー? 俺が強引に誘ったからね」
「……押しが強いんですね」
「まだ好きかどうかの自覚をしていなさそうだったから、隙をついてみました」

ひきょう者だからね、俺は。
煙草を咥えて笑いながら智紀さんはそのまま続ける。

「それに"好き"ではないにしろ好意を持たれてるのは確かだったからね。身体の相性が良ければ好転するかもしれないし?」
「……でも強引にして嫌われたらとか不安はなかったんですか?」
「そのときはそのとき。どっちにしろ告白すればうまくいくか振られるかのどっちかなんだしね。まぁとはいっても俺も強硬手段に出たよね、とは思うけど」

吐き出された紫煙を目で追って、ビールを一口飲んだ。
好きな子のことを考えているのかため息をつきながらもその表情は柔らかい。

「……やっぱり自信があるからできるんですか」
「自信持ってなきゃ途中でへたれちゃうでしょ」
「強いんですね、智紀さんは」

俺とは全然違う。

「当たって砕けろだからね、俺は。―――千裕くんは?」
「……」
「告白、しなかったの」
「従妹なんです。俺が好きな子は。下手に告白して気まずくなるのっていやでしょ」

できるだけ軽い口調で軽く笑う。
とっくに諦めたといいながらいまだに胸が疼くのはなんでだろうな。

「まだ好きなんだね」
「でももう彼氏もできてるんですよ。だから俺はもう」
「忘れたいのに忘れられなくて辛い?」

智紀さんは少し変わってて気さくで、初対面なのに話やすい。
でも、まぎれもなく大人だ。
俺よりも大人。
寄越された眼差しが俺を真っ直ぐ見ていて、目が逸らせない。
そんなことはない、と思っているし言いたいけど声が出ない。

「吐き出せばいいのに」

手が伸びてきて俺の頬をつねる。
痛いですよ、と口角を上げながらその手をどけようとしたら手を掴まれた。
掴まれた手首が熱い。
向けられた視線に、よくわからない胸騒ぎがした。



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