ぱんつの日 A


「智紀さん、返してください」
「なにを?」

リビングのソファでビールを飲んでいた智紀さんは顔を上げると俺の姿を見て目を細めて楽しそうに笑う。

「俺の下着ですよ」
「替えの下着なら置いてたよ?」
「……」

予想はしてたけど、呆れのため息がはっきりと出てしまう。

「女性物ならありました」
「可愛いくなかった?」
「……そういう問題じゃないでしょ」

返しながら俺の服を探す。
どこかに隠すまではしないような気がする。
でも探すのも面倒だしクローゼットにいくつか替え置いてたし取りにいったほうが早いかな。

「ちーくん」

座ったままの智紀さんが俺を手招きする。

「着替えてきます」

おいでと言われて素直に行くはずがない。
タオル一枚の俺が近づいたらなにされるかわかったもんじゃないしな。

「ちーくん」

寝室のほうへと行こうとして身を翻しかけた。
また智紀さんが俺の名を呼んで、そして―――「うわっ」と上がった声と、ソファが軋む音。
見ればソファの背もたれから大きく身を乗り出した智紀さんが落ちかけてる。

「なにしてるんですかっ」

驚いて支えようと手を伸ばしたら腕が掴まれて視界が反転した。
どすん、と大きく響く鈍い音。
そして強く打った俺の背中。

「ってぇ……」
「びっくりしたねー」

のんきに笑う智紀さんに俺は呆れたため息をまた吐き出す。
この人と居ると俺しょっちゅうため息ついてる気がする。

「びっくりは俺の台詞ですよ。なにしてるんですか」
「ちーくん引きとめようと手を伸ばしたら落ちたんだよ」
「落ちるほど身を乗り出すなんて小学生ですか」
「それだけちーくんに触れたかったってことだよ」
「……俺着替えてくるんで、退けてください」

この人と話してるとほんと調子狂う。
助けようとしたはず。なのに、俺は床に転がってて、そんな俺に跨ってる智紀さん。
さっきの落ちかけたのも全部このひとのパフォーマンスだったんじゃないかって思ってしまう。
いや、きっとそうなんだろ。

「ちーくん。あれ、履かないの? せっかく買ってきたのに」
「だからあれは女性ものですよ」
「うん。だから面白そうじゃない。見えそうで見えないじゃなくって見えてますみたいになりそうだけど」
「……親父ギャグのノリじゃないですか、それ」
「ちーくんが紐パン履いてるのみたいなー」
「俺にそんな趣味はないです」
「ちーくん」
「それに―――いくらでも喜んで履いてくれる人いるんじゃないですか」

言って、あ、と思ったけど遅い。
俺を見下ろす顔がおかしげに緩んだ。

「あれ、やきもち?」
「まさか」
「千裕」

視線を逸らす俺の耳に息が吹きかかり、耳朶が噛まれる。
甘噛みじゃなくて歯を立てられ、ちくんと痛みが走り眉を寄せた。

「なにするんですか」
「かわいなー、食べたいなーと思って」

悪びれない笑顔で智紀さんは噛んだ耳朶を今度は舐めてきた。

「俺は千裕であの下着プレイをしたかったんだからね? 千裕があれ履いて羞恥に悶えてるのを愉しみながら紐を外したかったんだよ」
「……真剣な顔でそんなこと言われても」
「千裕が拗ねるから俺の思いの丈を説明してんの」
「思いの丈って……」

出るのはやっぱり呆れのため息。

「ちーひーろ」

本当にこの人はバカじゃないのかって思う。
でもって変態くさいし。

「……んっ」

なのに塞がれた口から入り込んでくる舌に、腰にあった一枚のタオルを外す不埒な手に逃げることができない。

「いい匂いがする」

好き勝手に俺の咥内を蹂躙しておいて俺と違って涼しい顔で俺の首筋に顔をうずめる。

「……智紀さんと同じものしか使ってませんよ……っ、ん」

そうだね、と笑いながらも、

「ちーくんが使うと美味しそうな匂いになるから不思議だな」

なんて甘い声で囁いてくるから性質が悪い。
硬い床を背中に感じながら肌を滑る唇に俺は力を抜いて受け入れることしかできない。

「……っ、ぁ」

リビングなのに、せめてソファだったらと思いもするけど全部結局流されて、

「千裕」

この人にどうでもよくされてしまうんだ。


―――――
――――
―――


「ね、ちーくん。これ履いて二回戦しようよ」
「嫌です」
流されたらダメなところは断固拒否るけどな。


*END*


え、おわり?!
終わりです!!!←
パンツの日ネタなのに全然パンツ意味ない\(^o^)/

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