19
「っ、あっ、く……っ」
半身の先端を掌で包み込む。
手の中に吐き出される白濁。
俺の手に重なるように智紀さんの手が触れて、同じように受け止める。
「一杯出てるね。溜まってた?」
俺の手からこぼれたものを智紀さんが受け止めて、粘ついた白濁を俺に見せる。
顔が熱くなり視線を逸らし俯くと、背中を押され身体を反転させられた。
あおむけになった俺に智紀さんが跨る。
「あんまり抜いてなかった?」
「……」
「俺想って毎日シちゃったりとか」
「するわけないでしょ。そんな毎日なんて……」
いくらなんでも盛りのついた猿じゃあるまいし。
呆れて荒い息のまま返せばおかしげに声を立てて笑われた。
「そーなんだ、残念。じゃー何回くらいシた?」
「……だからそんな何回もシてないです」
やけ気味に答えた途端、また笑われる。
「ふーん。何回もってことは少なくとも一回はシてくれたんだよね。俺のこと考えて」
「……」
にこにこと一見毒気なんてまったくないような爽やかな笑顔が俺に向けられる。
できることならうつぶせになって枕に顔をうずめたい。
もうこの人の顔見ていたくない。
見てたら、見つめられて、そしたら全部見透かされそうで嫌だ。
だけど跨られてるから逃げることもできず、仕方なく汚れてないほうの腕を顔に乗せた。
「……出したの拭きたいんでティッシュください」
「舐めれば?」
「……」
「舐めてあげよっか?」
「いいです」
「遠慮しなくてもいいよ?」
「遠慮じゃなくって、もういいですから、本当に」
俺をからかうのが楽しそうなこの人に、焦らされる。
「しょうがないなー」
わりとすぐ近くにあったティッシュをとってくれて智紀さんは自分の手と俺の手を拭きとった。
俺はされるまま顔を背けてる。
やっぱり視線は合わせられない。
俺がひとりでシてたときにあった熱く欲が渦巻いた空気。
それはこの人の軽口で霧散してしまったようで―――してない。
俺を見下ろす目が、色欲に濡れてるってこと知ってる。
「ちーくんにとっては今日が二回目か。またじっくりほぐさないといけないね?」
言いながらズボンを全部脱がされて、衣擦れの音が響く。
「ちーくんの浴衣姿も見たかったな。あとで着てね」
「……俺が着てもカッコ悪いだけです」
「そ?」
心臓の音が、耳にうるさい。
「じゃあ俺の浴衣姿は?」
「……」
「どう?」
腕をずらし、ちらりと見る。
もう浴衣は布団の傍らに放られて、俺の視界にはいるのはしなやかでほどよく筋肉質な身体。
「……さぁ。いいんじゃないですか」
「なにそれ。智紀さんカッコイイです、って言ってほしいな」
なにもまとってない身体が俺の身体に影を落とす。
顔の両側に置かれた手。
「ね、そろそろこっち向いてよ、千裕」
俺はいま、どんな顔をしてるんだろ。
ついいまさっき一回抜いて、本当ならスッキリして、落ち着いていいはずなのに。
「ほら」
キスできないだろ、と言われ―――そっと腕を退けた。
「早く突っ込みたい」
爽やかな笑顔に反比例な、呆れるくらいまんまな言葉。
俺は無言でため息をつく。
でも、そのため息が緊張に少し震えてることは気づいてる。
「千裕は?」
「……もう、いいですから」
俺を焦らす軽口。
「言ってくれないの?」
さっきだって俺は十分頑張ったのに。
人の前で自慰行為するなんて、俺には考えられない行為なのに。
「……」
「千裕」
焦らされる。
疼かされる。
もういいって言ってるのに。
本当にこの人ってドSだろ……。
早く、と笑う声を聞きながら。
「……もう、いいから。早く―――触ってください」
まるでガキみたいに、拗ねた声の自分に呆れる。
けど、もう無理。
一回出しただけじゃ足りない、違う。
おかしいってわかってても、最初っから、欲情してたのは俺だ。
「―――了解」
身体に重みがのしかかって顔を向けると視線が絡まって、全部、囚われる。
触れてくる指に熱い吐息しかこぼれなかった。
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