09


俺たち以外車から出ているものはいない暗いサービスエリア。
もちろん灯りはあるけれど夜の濃さは深く、吐く息がとても白く見えた。

「俺、運転しますよ」
「んー? いいよ」

車へと辿りついて繋がれたままの手を離してくれるのを待ちながら提案すれば平気だと笑い返される。

「まだ二時間くらいしか運転してないし、大丈夫だよ」
「いや、でも」

確かに二時間くらいなら平気そうに感じるけれど、いまは深夜だ。
日中に比べたら疲労しやすいんじゃないか。

「俺が運転しますよ」
「いーの」

手が離れ、笑いながら智紀さんが運転席に乗ってしまう。
それでも躊躇って俺が助手席に乗れずにいると、ウィンドウが開いて乗るように促された。
仕方なく乗り込んだ俺をシートに深くもたれた智紀さんは目を細め見る。

「運転するの結構好きなんだよ。だから本当気にしなくていいよ。初日の出プラス元旦ドライブしたくてちーくん誘ったようなもんだし」
「……じゃあきつくなったらかわります。絶対言ってくださいね」
「はいはい」
「本当にですよ?」
「はーい。わかったって。じゃあそんな心配してくれるなら、ちーくんチャージさせてよ」
「……」

また手を繋ぐのか?
―――もういまさらだし、それくらいはかまわないけど走行中に片手ハンドルは危ないからな。
悩んでいると「ちーくん」と呼ばれて視線があった。
カーエアコンの暖かい空気が揺れる。
そして微かにシートの軋む音がして、智紀さんが身を乗り出し俺の目前に顔を寄せた。

「……なんですか」

距離は15センチ程度。
一瞬心臓が跳ねたのは単純に驚いただけだ。
平静を装ってあえて身を引くこともしなかった。
動揺、なんてする必要ないし。

「キスして?」
「……」

だけどやっぱり智紀さんは智紀さん。
まだ今日で会うのが二回目だっていうのに、いかにも言いそうだと思ってしまうのはどうしてだろう。

「……やっぱり俺運転かわります」
「いいよ。そのかわりキスしてよ」
「……キスはしません。だから俺が運転しますから」
「なんで?」
「なんでって……」
「じゃあ勝手にしていい?」
「……いや、それは―――」

俺が喋っている途中からゆっくりと顔が近づいてくる。
ほんの少ししかなかった距離がゼロに近づく。
もうあと少しで唇が触れ合いそうなところで智紀さんの動きが止まった。

「キスしていい?」
「智紀さん」

名前を呼んで、否定をするつもりだけど身体は動かない。
そんな俺を楽しげに智紀さんは見つめてくる。
近すぎる距離で。

「……あの」
「なに?」
「近すぎます」
「キスするからいいんじゃない」
「……いやキスは」
「キスは?」
「……」

吐息さえ吹きかかる距離で互いに止まったまま、視線だけが絡む。

「ちーくんは」
「……」
「強引なほうがイイ?」
「―――そ」

んなわけ、と続けたかった言葉は距離がゼロになったことで途切れた。

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