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「ちーくん、俺寂しいんだけど。イヤ?」

笑みを消して、眉を下げる智紀さん。
演技くさい……というのはわかる。


「ちーくん」

鈴が俺を呼ぶ声とは全く違うのに、そう呼ばれると弱い。
それに、


「こっちおいで。お願い」

俺はお願いにも弱い。
渋々お湯の中を擦り膝で智紀さんの傍にいく。
気持ち距離を置いて隣に座った。
妙な気恥ずかしさ。
ちらっと智紀さんを見ると目があって、ふっとその口元が緩んだ。


「―――捕まえた」
「へっ」

そしていきなり腰に手がまわってきて引き寄せられた。
浮力があるせいかあっさりと俺の身体は智紀さんに密着した。


「っ、うあ」

やばい、変な声が出た。
でもまじでやばい。
俺は智紀さんの足の上に座らされ、逃げようとしても腰をガッチリ押さえられていて逃げれない。
ばしゃばしゃとお湯を揺らしてそれでも離れようとすると吹きだされた。


「そーんなイヤがらなくてもいいのに」

からかうような眼差しで覗きこまれる。
嫌とかそういう問題じゃない。
俺の腰にまわっている手が肌の感触を確かめるたびに身体が震えてしまう。
不安と緊張のせい、のはずだ。


「ちーくんてさ、童貞じゃないよね?」
「……」
「え、童貞?」
「ち、違います! っちゃんと経験ありますよ」

さすがに童貞と思われるのは不本意だから急いで首を振った。


「ふーん。じゃあ別に風呂でイチャつくくらい平気だよね?」
「……いや、それは」

女と一緒に風呂なんて入ったことないし。
……鈴とはほんとうに小さいころ、入ったことならあるけど。


「あれ、もしかして、ちーくんってさ」

吐息がかかるくらいの至近距離。
羞恥と気まずさとでいたたまれなくて視線を合わせることができなかった。
ライトとか南国をイメージでもしたかのように置かれた観葉植物を気を紛らわせるように眺める。


「好きな女の子以外どーでもいいから、どーでもいいセックスしかしたことなかったりする?」
「……」

それは―――正直図星で固まってしまった。
もっと智紀さんの顔を見ることができなくなってしまって限界まで首を逸らす。


「へぇ、そうなんだ。それは―――……開発のし甲斐があるね」

楽しげな声が最後の方は一段低くなって聴こえた。




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