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背広はもう脱いでいてネクタイを緩めながら智紀さんが目を細めて俺の肩に手を置いて外を覗き見る。


「……えっと」
「ちーくんはさ、温泉とか苦手な人?」
「え……。いや、平気です」

俺が言うと智紀さんは「よかった」って満面の笑顔を浮かべた。


「じゃあ一緒に入れるね」
「はぁ………エッ!?」
「えっ、って、だって男同士だし恥ずかしいことないでしょ」

まるでやましいことなんかないように言われたら―――頷くしか、ないのか?
智紀さんは外に出てジャグジーにお湯を溜めだす。
ラブホテルに来た時点で覚悟を決めなきゃいけないんだろうけど。

……いきなり一緒に風呂はハードル高くないか。


「まぁでも並んで身体洗うのも微妙だし、俺が先に入るから、ちーくんはあとで入っておいで」

洗い場は内湯のバスルームにだけだ。
少しだけでもタイムラグがるのならそっちがましだし。
鼻歌歌い出す智紀さんに対して俺は身体が固まったように動けなかったけど。
それでも目が合うと一瞬俺を絡め取るような眼差しを向けた智紀さんに、逃げだしたいのと同じくらい、身体の奥が疼くのも感じた。

ネクタイを外した智紀さんは俺がいるにも関わらず服を脱ぎだした。
予想外にバランスよく筋肉がついた締まった身体つきに思わず見てしまう。
それは変な意味じゃなくて、同じ男として羨ましいなって見惚れただけだ。


「やっぱり一緒に洗いっこする?」

からかうように笑われて、慌てて脱衣所から出た。
リビングに戻ってソファに座ってテレビをつける。


『……っあん、ぁあ!』
「……」

ドラマで見たことあるようなお約束のように流れてきたAVにリモコンを探してチャンネルを変える。
AVはさすがに見たことあるし、別にビビったりはしない。

けど――風呂までいまの聴こえてないかなというのは少し心配だった。
だってひとりで見てたら智紀さんに絡まれそうな気がするんだよな。
それにしても……ラブホ、だよなぁ。
ベッドがないからつい忘れそうになるけど……大人の玩具の自販機もあるし。
メニュー表を開けてみればレンタルコスプレだのなんだの乗っていて、やっぱりラブホだなと実感した。

―――鈴もいつかはこういうとこに来たりするんだろうか。
彼氏が出来て、もう鈴は"女"になってしまってるけど。
考えなきゃいいのに、考えるまでもなくそんなことが頭の中を埋め尽くしていく。
一生告げるつもりのない気持ちを封印したはずなのに、気を抜くとあっけなく蓋は開いてしまう。

ため息ひとつついて冷蔵庫からビール取り出して飲んだ。
プロ野球ニュースを眺めながら余計なことを考えないようにする。
試合結果だけを目で追ってたら、考えなさ過ぎて突然聴こえて来た声にびくりとしてしまった。


「ちーくーん」

心臓がばくばく速くなる。
視線を向けると脱衣所のドアから智紀さんが顔をのぞかせていた。




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