20


一戦を終えたあとしばらくして風呂に入った。
くたくたな俺を甲斐甲斐しく洗ってくれる智紀さんに、いつもなら拒否するけど今日くらいはと身を任せた。

「―――幸せだね〜」

湯船につかりながら、そんなのんびりとした声で言いながら―――も、智紀さんの手は虐めるように俺の後孔に入り込み前立腺を刺激していたけど。
結局流されるようにそのまま風呂でもヤって、またベッドに戻ってからもヤって。
最後は抱き合ったままどちらともなく眠りに落ちてしまっていた。

そして―――。
意識が浮上して瞼をあげれば目の前に智紀さんの寝顔があった。
こうして寝顔を見るのはもちろん初めてじゃないし、何度もあった。
最初に見たのは……正月、京都へ拉致されたときだったっけ。
眠ってるときは普段よりも少し幼く見えるのは変わらずだ。
その寝顔をじっと見つめて、この人が俺の恋人になったんだ……っていまさらだけど考えて、不思議な気持ちになった。
一度きり、あの夜だけで終わると思っていた関係。
接点なんてなにもなかったはずの俺たちが出会ったあの夜は今日という日から見れば始まりだったんだな。
それもこの人が強引に俺の手を掴んだから、だけど。
引きずられるままに流されるままに智紀さんの奔放さに振り回されたけど。
でも。
あの夜、この人が言ったとおりに俺は一つの恋を忘れさせられた。
悪い意味じゃなく、いつのまにかすとんと鈴への想いは、大事だという気持ちはそのままに熱情だけを消化させて落ちついた。
そのことに本当はもっと早く気づいていたんだと思う、俺自身。
だけど鈴を見守ると従兄妹という切れない絆を選んだ過去がある俺が早々と同性とのそれも智紀さんに恋に落ちるなんて、ましてやそんな自分の感情を認めるなんてできなくて。
ヘタレかって笑える。
そっと手を伸ばして智紀さんの髪に触れた。
いつもされるように撫でるように髪の毛を梳く。
一歩踏み出す勇気なんてなかった。
でも―――。

「……智紀さん、好き、です」

過去彼女はいたけど上辺だけの言葉じゃないそれを声にするのは初めての経験だ。
鈴には一生言うことはない言葉だった。
鈴以外を好きになるなんてあるのかって漠然と思ってたのに。
だから、言ったはいいけどあり得ないくらいに顔が熱くなるのがわかった。
バカなのか、バカだったのか、俺は。
と、きっとゆでダコのように赤くなってるだろう顔を隠すように俺は智紀さんに背を向けてまるくなる。
同時にぎゅーっと抱きしめられる。

「俺も、大好き」
「……知ってます」

髪に触れたとき瞼が少しだけ痙攣して―――きっと目覚めたんだろうってことはわかっていた。
首筋に唇が押しあてられて、むずがゆさに口元を緩めながら目を閉じた。
そしてまた俺たちはゆっくりとまどろみに落ちていった。


――one night END――

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