12月1日


「捺くんも社会人になってからの大人なクリスマスがいいです( ´艸`)」
「優斗が捺のスーツ姿に萌えるのをもう一度読みたいです。」


***



「優斗さん!」
近所のスーパーを出たところで後ろから声がかかった。
振り向かなくても誰かなんて知ってる。
今日は日曜でいまはまだ3時近く。
足を止めて振り返れば駆け寄ってくるのはスーツ姿の捺くんだ。
今日は日曜だったけど捺くんは急に休日出勤になってしまった。
「早かったね?」
「午前中で仕事片付いたんだ。すぐ帰りたかったんだけど桜木さんがお昼奢ってくれるっていうから食ってきて、今帰り」
突然帰って驚かせようかなと思って連絡しなかったんだ、と笑う捺くんが俺と肩を並べる。
きっちり着こまれたスーツと、後ろへと流した髪。
リクルートスーツじゃなく、もう着慣れてしまっているスーツ姿。
スーツのCMでも出ていいんじゃないかなってくらい似合ってる姿に少し見惚れてしまう。
捺くんが社会人になってもう6年が経とうとしていた。
「そういや今日で12月か。早いな」
俺が持っていた二つの買い物袋をひとつ持ってくれて、歩き出しながら捺くんが通り過ぎる洋菓子店のクリスマス仕様の外観に呟いた。
「今年のクリスマスは平日だからつまらないね」
「そうだね。でも俺は捺くんと一緒なら楽しいよ」
出会ってもう12年も経つというのに、あの頃とまったく変わらない気持ち。
出会ったときの俺と同じ歳になってしまった捺くんは俺を見てふっと微笑んだ。
大人びた―――じゃない、もうすっかり大人の顔。
笑顔や、日常の中で昔のあどけなさも見えるけれどやっぱり雰囲気はだいぶ落ちついた。
「俺も同じ」
目を細める捺くんと笑いあいながら帰路についた。

***

「ゆーとさん」
マンションについてエレベーターに乗ったとたん、ボタンを押していた俺を捺くんが呼んで。
なに、と振り向いた瞬間、唇に触れる体温。
一瞬で離れていった唇が不意打ち過ぎてぽかんとしてしまっていると、可愛いよりもカッコイイとしか言えない捺くんは悪戯気な笑みを浮かべ俺の耳元に唇を寄せた。
「優斗さん、俺のこと見すぎ。もう社会人になって長いのに、本当スーツ着てるときすごく見てくるよね」
「……っ。いや、別に……」
否定しながらも俺の顔は一気に熱くなる。
正直―――捺くんのスーツ姿には妙に弱くて、言われたとおりつい目で追うことが多かった。
気まずさに視線を泳がせていたら吹きだす声が聞こえ、エレベーターが止まった。
降りながら捺くんが意味ありげな笑みを向けて、
「帰ったらスーツのままシよっか?」
なんて囁いてくる。
「……皺になるよ」
「クリーニング出せばいいだけだろ。平気」
そう言って俺の手を握っくる捺くんに俺はいい歳して拒否することもできず、そっとその手を握り返したのだった。


*おわり*

 next

TOP][しおりを挟む]