32 好き


「疲れた!」

狭いベッドの上で大の字になって大きなため息を吐きだした。
もちろんスッキリ大満足だけど、疲れたのは疲れた。
奏くんともヤってはいた。でも本当の意味で男を抱いたって感じたのは今日。

「もっと体力つけろ」

ヤリはじめてどれくらい経ったのか。
三回戦まで立て続けにヤったって、かなり頑張ってない?
そんな思いを込めて視線を向けると、ベッドの端に脚を下ろしていた夾は煙草に火をつけながら鼻で笑った。
情交のあとが色濃く残る部屋の中は暖房がよく効いていて、そこに煙草の匂いが混じりだす。

「毎日ヤってたら体力つくんじゃないかな」

夾の匂いが充満する空気。
シャンプーだとか香水だとかそんな可愛い匂いはまったくないけど落ちつく。

「毎朝ジョギングしろ」

紫煙が俺に向かって吐きだされる。

「朝、寒いなぁ」

真冬の早朝は辛い、と身も凍る朝の冷気を思い出して無理だなって確信。
ヘタレ、と笑う夾に、地味に筋トレがんばります、と返しながら綺麗な筋肉についた赤い痕を眺める。
首筋と、背中と。
手を伸ばして指先でそれに触れて、

「本当によかったの?」

と、なんとなく訊いてみた。
いやならヤらないだろうってのはわかってる。

「あ?」

ただ突っ込んでよかったのかなーと。
夾ってネコなんだろうかって考えるとそうでもないような気もするし。
俺が言いたいことを察したんだろう。煙草をくわえたまま夾はなんでもないことのように笑って言った。

「惚れてる相手になら突っ込まれても構わねぇよ」

本当にあっさりとした、さらりとした口調。
その言葉を咀嚼するのに少し呆けた俺を夾が睨む。

「お前は違うのか?」
「違わない!」

とっさに言えば、夾の口元が当然だろと緩んだ。
俺も、緩む。にやにやしちゃってヤバいくらい、緩む。

「夾、好き」

夾の身体に腕を巻きつけてうなじに唇を寄せた。
言ってしまえば、またヤバいくらいにやけてしまう。

「……おい」
「ってぇ!」

同時に疼きだした身体に、夾の肌へと手を滑らせ始めれば遠慮なしにつねられた。

「シャワー浴びるからやめろ」
「えー? いまの流れって四回戦の合図だろ?」
「違う。ヤんならシャワーと飯食ってからだ」

俺の腕をほどいて煙草を消して立ち上がる夾に俺も一緒に立ちあがる。

「じゃあ俺もシャワー浴びる」
「狭いから来るな」
「だって夾の中に出したやつも掻きださなきゃだろ? 平気平気」

舌打ちしながらしょうがねぇなと、

「大人しくしてろよ、智紀」

ため息をつく夾。
その言葉に―――俺が大人しくなるわけがない。
男二人で入れば窮屈すぎるバスルームで密着した身体が離れることはなかった。



こうして、高二の冬、俺と夾は付き合いだしたのだった。

prev next

[TOP][しおりを挟む]
[HOME