15 そして、12月となり


「あー温かい」

自販機で買ってきたコーヒーの温かさに癒される。
12月に入り寒さは段々と深刻さを増してきていた。
陽が差してるから暖かいような気もするけど倍以上風が冷たい。
学校内なら暖房がついているし快適な昼休みを過ごせる―――が、だ。

「藤代。クリームメロンパンいらない? 新発売」

はじめてのこの屋上で遭遇してから三週間。
約束したわけでもないのに昼休みに屋上で夾と会えるこのチャンスをなくすのは惜しい。
―――俺って健気ー。
まあ三週間たったいまも夾が返事をくれることはないけど。
場所の共有はしててもとくに仲良くなったわけじゃない、ように思えるが俺はわりと近づいているんじゃないかと思う。
会話はなくても心の距離がきっと近づいるはずだ!
俺と夾の距離いま何メートルだろう、100メートル?
くだらないことを考えながら食べる購買部の新発売クリームメロンパンは思ってたほど甘すぎずなかなか美味しかった。
ブラックのコーヒーとちょうどいい感じだ。

「藤代、まじで美味しいよ? 一口あげよっか?」

俺の鼻をくすぐるのコーヒーの匂いにまざって夾の煙草の匂いがしてくる。
返事があるなしにかかわらず、煙草の匂いと流れていく紫煙を、男前な夾の横顔を眺めながらな昼食はなかなか楽しい。
夾は一服すればすぐに立ち去るわけだけど。
今日もまた煙草を消して吸い殻を片付けるとドアへと向かう姿を見送る。
俺も飯食ったら生徒会室でも行こうかなーとぼんやり考えてた。
そのせいで、遅れた。

「―――か」

声がしたのはわかっていたけど、一瞬理解が遅れた。
いままで夾から話しかけてきたことなんてなかったからな。
なんという成長、心の距離はやっぱり縮まってたんだなと感心しながら、

「え? なに?」

聞き逃してたから聞きかえした。
夾は眉を寄せて短く言った。

「お前、寒くないのか」

俺は空を見上げる。
澄み切った青空、眩しい日差し。―――冷え切った空気。

「寒いよ?」

冬だから寒いに決まってるし。
首を傾げて答えると、背を向けられた。
え、話終わりかよ。
と思わず内心つっこむ。
でも夾から話しかけてきてってのはすごいことだよなぁ、やっぱ。
うんうん俺すごいわ、て一人頷いていたらひときわ冷たい風が吹き抜けて、くしゃみが出た。
直後、ドアが閉まる音が響く。
ひとり残された屋上でぬるくなったコーヒーを飲みながら、テントでも張れば多少寒さも和らぐだろうかと寒さ対策を考えだしたら少ししてまたくしゃみが出た。

「明日はカイロ持ってこよう」

悪寒を感じてその日は食べ終わるとすぐに屋上を後にした。

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