secret T
「なんだそれ、俺にチョコか?」
インターフォンが鳴って玄関を開けると、やたらと大きな紙袋を持っている智紀に開口一番そう言った。
「……なんで俺が紘兄にチョコやんなきゃいけないの」
すぐさま呆れた顔でため息をつく智紀は小学生とは思えないふてぶてしい大人びた雰囲気がある。
「おばさまがたにおすそわけ」
「双子はいいのか?」
「干和に虫歯が見つかって今うちチョコ禁止令でたんだよ」
まだ小学校低学年の智紀の妹・干和を思い出す。
確かにいつもチョコ食ってるな、と苦笑して智紀に中へ入れと促した。
智紀は礼儀正しく脱いだ靴を並べると不思議そうにリビングのほうへと視線を向ける。
「静かだね。誰もいないの?」
「お袋と波さんは今日は観劇。晄人はコウのところに行くって出かけたぞ」
「え? 本当に? アキのやつ、あとで来るって言っておいたのに」
はぁ、とため息をつく様子はやっぱりどこか大人びている。
手を伸ばして綺麗に整えられた髪をつかんで軽く引っ張る。
「……」
なに、と見上げてくる智紀の手からチョコが入ってる紙袋を持ってやる。
「……ありがとう」
素直に礼を言ってくる智紀の髪をまた引っ張ってみると「痛いって!」と足を蹴られた。
***
「へー結構貰ったな。これ手づくりじゃないのか」
色とりどりのラッピングが施されたバレンタインチョコ。
弟の晄人もだがこいつもモテる。
今日は休日だというのにどこで貰ってきたのか、軽く10は超える箱の一つを手にとって中を開けてみた。
「手づくりっぽいね」
綺麗に作られてはいるが手づくり感の残るトリュフチョコレート。
箱にはメッセージカードも添えられていた。
「……中二?」
丸文字で書かれた智紀へのメッセージの最後には私立中学の二年ユカと書かれている。
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