ホテルの高層階にあるバーで夜景を楽しみながら酒を飲んでいた。
いまはひとりだけどつい三十分前までは同業も一緒。
急用で相手は帰ってしまったけど、たまにはひとりでゆっくり飲むのもいいよなってじっくりブランデーを味わっていた。

「―――」

金曜の夜ともあってバーには人が多い。
でも騒がしいって感じじゃない。
落ちついた照明とクラシックなインテリア。
来ている客も静かに談笑していた。
そんな中で不意に、聴こえてきた名前。
優斗くん、という名前に顔を上げた。
よくある名前だと思いつつ、そう呼んだ声にも聞き覚えがあって振り向くと二人の男が出口へと向かっていた。
片方は体調が悪いのか俯いていて―――って、あれ優斗だよな。
まさかの本人。
しかも、だ。

「……まじかよ」

大丈夫?、とでも優斗に話しかけているらしい男は最近は会っていなかったけど以前はたまに飲むこともあった知り合いだった。
仕事の面でもお世話になったことがある40半ばのいわゆるダンディという言葉が似合いそうな男で―――ゲイだ。
しかも……。

「どういう接点。あれヤバいだろ」

気にいった男はノンケだろうと絶対食うとかいう、タチの悪さ。
あきらかに優斗はあのひと・甲斐崎さんにロックオンされてるな。

「……つーか……」

優斗の様子がおかしい。
ふらついたのを甲斐崎さんが支えている。

「……」

そしてふたりはバーを出て行って、いやーな予感に俺も慌てて後を追った。
エレベーターへと向かうと3基のうち全部上に向かってるけど、一基だけがこの階よりも上にいっている。

「……優斗くーん……食われるなよー」

エレベーターが来るのを間違いながらきっと二人が乗っているだろうエレベーターが止まる階数をチェックする。
49階で一度止まり、そしてまた上昇するエレベーター。
次ぎを見る前に俺のいる階にエレベーターが止まり乗り込んだ。
迷ったけれどとりあえず49階を押す。
数分のタイムラグがあるけど間に合うだろうか。
部屋に入られたらアウトだよな。
優斗がそう簡単に連れ込まれることはない……とは思うけど。
早く着け、と気だけが急く。
ようやく49階についてライトグレーの絨毯を踏み進んでいく。
静かな廊下に微かな話声が聞こえてきてそちらを見れば―――ビンゴ、目当ての二人がいた。

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