チョコにご注意を☆2


「美味しい……」

俺が思わず呟くと、智紀が「だろー?」と笑顔を向ける。
うん、と素直に頷いてもう一口飲んでいるとチョコレートの箱を手元に押してきた。

「チョコレートもどうぞ。ワインにわりとあうよ。ビターなの中心だから」
「へぇ」

美味しいワインに仕事の疲れも少し癒され、チョコレートに手を伸ばす。
つややかな表面をしたチョコレートはトリュフで、洋酒がきいていて微かな苦みのある甘すぎないものだった。

「うん、美味しい」
「だろだろ?」

きっと高いチョコレートなんだろう。
あまりチョコレートのことに詳しくはないが上品で濃厚な味にそう思えた。

「……あれ、智紀飲まないのか」

口内に残るチョコレートの風味を味わった後、またワインを飲んで、ふと気付いた。
智紀へと用意したグラスにはなにも入ってない。

「つごうか?」

不思議に思ってボトルを取ろうとしたら、

「いいよ。俺もう帰るから」

と、返してくる。

「……は?」
「平日だし、疲れてる優斗に無理させたくないしねー。ま、そのワインとチョコでゆっくり過ごして」
「え、でも、せっかくだから一杯くらい飲めば?」

そうじゃないと何をしに来たのかっていう話になるような。
にこにこしたままの智紀に戸惑いながらすすめるけれど智紀は首をふる。

「また今度にする。ああ、そうだ。はい、優斗」
「え?」
「あーん」

テーブルに置いてあるチョコレートを一粒とって、差し出してきた智紀。
つい口を開けたらチョコレートが放り込まれた。

「美味しい?」
「……うん」
「なら、いーの。じゃー、智紀くんは帰りまーす」
「……」

本当に何しに来たんだろう。
智紀は本当に帰るらしく、まだ座って10分ほどしかたっていないというのに立ちあがり玄関へと向かった。

「なぁ」
「なに?」
「何しに来たの?」
「ワインとチョコのお届に」

靴を履きながら智紀が俺を見て、爽やかすぎる笑みを浮かべる。
―――……胡散臭い。
と思ってしまうのはどうしてなんだろう。

「あれってもらいもの? 智紀がもらったんだろ、チョコ。食べなくていいのか?」

あんな高そうなチョコレートを食べてもらえないなんて、渡した子も知らないだろうけど可哀想な気がする。

「いいのいいの。もらってないし」
「……?」
「あれ、俺が買ってきたやつだから。優斗に」
「……え?」
「今日バレンタインだろ」
「うん?」
「俺から優斗に」
「……チョコを?」
「そ、チョコとワインを」
「なんで?」

女の子同士でチョコレートを渡し合う友チョコというのがあるのは知ってるけど。
男同士でもするんだろうか?
疑問に思う俺に、智紀は口角を上げ、玄関のドアを開けた。
その笑みはさっきまでとは少し違うもので。

「そりゃーチョコを渡すってことはねぇ? とりあえず」

目を眇める智紀は、明らかにニヤリ、と笑った。

「ホワイトデー楽しみにしてるから。―――優斗、倍返しが相場だよ」
「……は?」

そう言って、ばいばい、と手を振るとあっさり出ていってしまった。
―――ホワイトデー?
意味がわからずその場で呆ける俺。

そしてとんでもないチョコレートを受け取ってしまったのだと気づくのは―――

一ヶ月後、ホワイトデーでだった。



☆つづく!!!☆

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