チョコにご注意を☆1


2月14日、バレンタインデー。
女の子や男の子、恋人たちがドキドキする日。
だけど一人身の俺には特に意味のない日だ。
職場でいくつかもらったけど、義理チョコだろうし、職場の女性は俺としては対象外で、まだまだ当分一人身だろうな。
仕事も忙しいし、いまは一人でいい。
バレンタインだけど、とくに俺には興味なく関係ない一日で終わるはずだった。
だけど―――夜8時、インターフォンを鳴らしてやってきたのは―――。


【チョコにご注意を!】



「……なに、突然」

よく見知った顔の訪問に、ため息をつきながら玄関を開けた。

「いやー、いいワイン手に入ったから飲まないかなーと思って」
そうワイン片手に笑うのは親友の智紀だ。
パッと見ためは爽やかな笑顔を浮かべ、明るいけど知的な印象も受ける―――エリートっぽい男。
だけど、その笑顔がどうにも胡散臭く見えてしまうのは俺の目がおかしいのか。

「……平日なのに?」
「だってバレンタインだよ? 一人身同志、ワインでも飲まなきゃやってらんないでしょ!」
「……別に俺は」
「まー、いいからいいから」
「いいからって……ちょっと!」

明日も仕事なんだけど、とため息を再度ついた俺を気にすることなく智紀へ部屋に上がりこむ。

「心配しなくてもすぐに帰るから」
「……本当に?」
「本当ほんとー。でも優斗、もうちょっと歓迎してくれてもいいだろー。せっかく親友の智紀くんが来たんだから」
「……だって智紀飲みだすと長い」

たまに俺の家に飲みにきたりするけど、酒豪なのかいつも朝までコースで飲み明かす。
まぁ休みの前なら構わないけど今日は平日だ。
明日の仕事に響くようなことは避けておきたかった。

「ほんとーに、すぐ帰るって。約束する」

わざとらしく真面目な顔をして頷いて見せる智紀に、またため息をついてリビングに連れ立って入っていく。
食器棚からワイングラスをふたつ取り出し、おつまみを用意しようとしたら、

「長居しないからいいよ」

と制された。
本当にすぐ帰るのかな、とグラスを持っていった。
リビングのソファに腰をおろしている智紀は持参のソムリエナイフで慣れた手つきでワインのコルクを抜いている。
グラスをテーブルに置くと、チョコレートが出してあった。
繊細なデザインのチョコレートが10個ほど入った箱。
すぐそばにラッピングしてあったんだろう包装紙と解かれたリボンがある。
高そうなチョコレートは智紀がもらって来たんだろうか。
きっとそうだろうな。智紀はこう見えてもてるから。
いや……こう見えてもなにも普通に見ればいい男だからモテるだろう。

「はい」

グラスにワインがそそがれていく。
どうぞ、と促されて芳醇な匂いをかいでから一口、口に含んだ。

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