夏休みと縁側/サエ不二



お盆も終わり夏休みも終盤となった頃、何度も誘われていた彼の実家にようやく遊びに行くことができた。

「久しぶりだね、佐伯の家に来たの。」
「ほんとだよー!いつ以来だったかなー?」

彼の両親に久々の挨拶も済ませ、程よく手入れされた庭を眺めながら縁側に二人で並ぶ。
暑いねー、と佐伯が団扇を扇ぎながらこちらにも風を届けてくれる。真夏の暑さはだいぶ和らいだとはいえ陽射しは容赦なく照り付けていた。
時折佐伯がくれる冷たい風が気持ちよくてつい目を閉じる。交代するよ、と手を伸ばしても佐伯は団扇を渡してくれなかった。

「不二はいいの。」
「手、疲れない?」
「大丈夫だよ、俺は暑さになれてるから」

僕だってそこまで弱くはないけど、佐伯の笑顔にそれ以上は言えず大人しく風を受けていた。

「もうすぐ夏休み終わっちゃうな。」
「そうだね」
「夏らしいことした?テニス以外で」
「うーん……テニス以外って言われるとなぁ……まだだよ。」

勿体ないよ不二、と笑う佐伯の横顔を見ながら、どうしようか言わないでおこうかな、と心の中で自問する。
チリン、と風が吹いて響いた風鈴の音に、ああこれもここで聴きたかったものだ、と自然と笑みが零れる。

「……楽しそうでよかった。」
「え?」
「いや、不二忙しいからさ、誘っても無理かなって思ってたんだ………でも来てくれて嬉しかった。」

だから俺がおもてなししたいの、と大きく団扇を扇いでくれる佐伯に、こっちこそ嬉しくてしょうがないんだと伝わってくれるだろうか。

「とっておいたの。」
「ん?」
「夏らしいこと……夏にやりたいこと、全部。」
「……。」
「…ここで、一緒にしたかったから」

チリン、と風鈴の音が沈黙した二人の間に響く。佐伯が手を止めたせいで風が止み僕は余計に体が熱くなった。
スッと距離を詰めてきた佐伯が「不二」とさっきより優しく呼ぶから彼が嬉しそうな顔をしてることは見なくてもわかった。

「明日は海に入ろうね」
「……うん」
「スイカも冷やして食べよう」
「……うん」
「海の家にかき氷もまだ売ってるからね」
「うん」
「あと花火も買ってあるから夜ここでやろう」
「うん」
「やり残したこと全部……二人で一緒にね」

もう一度、チリンと鳴った音と重なった唇のせいで返事は声にならなかったけど。
代わりに、まだ夏は終わらないよ、と熱に浮かされた頭に聞こえた気がした。
(けれどまだしばらくは縁側から動けそうにない)







(筆者)
羅紗 様
(サイトURL)
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(nextお題)
「夕暮れ」




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