はじまり/塚不二





「手塚って身長高いよね」

みんなが帰った部活終わり、日誌を書いていた手塚に僕は絡むように髪をくしゃくしゃと撫でつける。
手塚は隠すわけもなく嫌そうな顔をして僕を見上げるもんだから、僕はおかしくなって機嫌よさそうに髪に口付けをした。

僕たちがそういう関係なのを、青学のみんなは知らない。
隠すつもりは無かったけど、言うほどでもないし見てわかる程ベタベタする二人でもなかったから、みんな知らない。

「お前はこれから伸びるんだろう。慌てる必要はない。」
「はは、違うよ。嫌味じゃない。僕、君との身長差が好きなんだ。」

嫌そうな顔も心から嫌ではないのは知っている。
手塚はいつも僕に優しかった。
溢れんばかりの愛情を注いでくれるのも知っていた。

「12センチ」

僕は宙に指を動かして数字を書いた。
日誌を書き終えた手塚は制服に着替えながら僕の言葉に耳を貸してくれるから、僕はその大きな背中を抱き締めた。

「僕が見えて手塚に見えないものなんてないのかな。」
「…不二?」
「僕が見えないだけならいいけど、君が見えないのは嫌だな。」

背中を抱きしめていた手を彼の腕に移動させた。
腕をまた傷めているのを知ったのは、ついこの間だ。
びっくりしたしショックだった。
何よりも、ショックを受けていない手塚にショックだった。

「俺に見えないものはない。」
「…すごい自信だ。君らしい。」

ふふ、と笑うと手塚は着替えを終わらせて僕の髪をくしゃくしゃと撫でてくれた。
心地よい、おっきな手だ。
傷だらけのその手は、僕にとって何よりも大切なものだった。

「見えないものがあったらお前が俺に教えてくれればいいだろう。」
「うん、そうだね。…嬉しいな。」

誰よりも強い手塚が、大石ではなく乾ではなく大和部長ではなく僕を頼ってくれるのが何よりも嬉しかった。
君のためなら死んでもいい、そうすら思ってる。

「ねえ手塚、一緒に帰ろう。」
「…始めからそのつもりだろう」

当たり前のように背の低い僕と同じ歩幅に合わせてくれる君が、愛おしくて愛おしくて。
僕は僕の歩幅に合わせてくれるその歩幅に合わせて、学校を出た。







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セルフお題は はじまり でした。
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