混沌
匂い立つような色香がたまらない。ひく、と喉が鳴った。虚ろな深緑の瞳に吸い込まれそうだ。白い肌に紅がよく映えて、あどけない表情と仕草に誘惑される。
「……………」
ゆらりと空気が淀んで『主人』が帰ってきた。
「…おかえりなさいませ」
気付かれたかもしれない。何しろ主人は聡明で酷く目敏い。
深々と頭を下げるとコツリと踵を返す。どうやら珍しく咎める気はないらしい。
『彼女』の傍のベッドの上に主人が腰掛け、じっくりと観る。人形みたいな作りの顔に表情が感じられない。そう思った矢先、色が混じった。
「ひるま…」
甘い声で主人を呼ぶ彼女は淫らに腰をくねらせている。
主人が彼女という淫魔を拾ったのは何年か前のことだ。初めは殺す気なのかと思う程枯渇させ、ある一定期間を過ぎると大量に『精』を与えた。
今では同じ空間に居るだけで射精を促され、吐き気と頭痛が引き起こされる。
* * * * * *
日に何度も抱かれると腹が満たされる。
ちょっと前まで枯渇して死にそうだったのが嘘みたいだ。
ヒル魔は魔力が強い。ヒル魔と交わるとすぐに腹が膨れて痛くなるからヒル魔の前での便宜上の性別は男だ。他の奴らには女に見えていることだろう。
「……腹減った」
最近ヒル魔が長く家を空けていてちょっと欲求不満だ。適当な奴で満たせばまた死に目に合う。
「腹…減った…」
ぐぅ、と腹が鳴って最後に喰ったのはいつだったかと思案する。
適当な奴で満たしちまおうか。
「……バカなこと考えんなよ」
「…ひるま…腹減った…」
「いつも喰い過ぎて痛ぇって言うじゃねーか」
ケケッ、とヒル魔が笑う。
「それは…その…」
わかんだろ。
喰っても喰っても足りない。