虜2
「おいあれ…美里じゃねぇ?」
「マジだ…可愛い…」
周りがざわざわして美人顔の高校生が足早に通り過ぎた。かと思えば駆け出して、何となく目が追う。
「遅れてごめんなさい」
女子高生がスーツの男に謝ってる。
「おい」
聞き覚えのある鋭い声。
「帰るとこなんだよ」
「ごめん"ヨウイチ"」
「チッ、外で会うもんじゃねーな。さっさと帰んぞ」
声の主と女子高生が並んで歩いて行った。こっちには気付いてなかったみてー。ホッとしたような残念なような。
そのまま反対方向に歩き出す。
見たくなかったなぁ。あいつがモテんのは今に始まったことじゃねーけど改めて見せつけられると辛い。
元来た道を戻りながら電話をかける。
「…やっぱ今日は家飯にしようぜ」
『あ゙ァ?』
「俺作るし」
『もう着くんだけどよ』
「スーパー寄って行こーぜ」
『無駄足じゃねーか』
「悪ぃって。……あ」
「…ナメてんの?」
「カッ!早ぇな」
「腹減ったしな………泣きそうなのは店入ってから聞いてやるから。あのビル?」
「…隣の42階」
美味い中華。値段は高め。
結局個室に通されて阿含と向かい合って小籠包食ってる。
「阿含はさあ、なんで俺と付き合う気になったの」
高校の頃なんて俺のこと眼中にもなかったじゃねぇか。お前はヒル魔見てたしよ。
「失恋したときが狙い目って言わねぇ?」
「俺が"元"ヒル魔のもんだからじゃねぇの」
「分かってんじゃねーか」
「……分かってたけど改めて言われっと、なんかこう…やな感じだな」
「まあそれだけで何度もヤッたり飯食ったりはしねーよ、そんな暇じゃねーし。お前だって今好きなのはヒル魔のヤローなわけだろ、そんなもんだろ」
「やっぱ…そーなのかな…」
「それマジで言ってねーよな」
「……俺、お前のこと好きだったんだ」
「知ってる」
「でもお前はヒル魔見てたよな。ヒル魔は俺に執着してたみてーだったけど俺はお前が好きで。ヒル魔はそれでもいいって言ってた。それでもいいから傍に居ろ、って、言った…」
「ヤツは独占欲の塊みてぇなもんだからな、俺がお前にちょっとちょっかい出しただけでキレんだぜ。ひっでぇよなぁ」
独占欲の塊、ってのは頷ける。
「でも手放したんだ…」
俺が別れてって言ったから?飽きた?
わかんねえ…
こんな風に掻き乱されてんのはたぶんさっき見たから。