虜2
「こないださー葉柱見た」
「…あ?」
「賊大卒業してから見てなかったんだけどよーってお前らいつまで付き合ってたんだっけ?」
先月まで。
「……………で?」
「久々に見たらすげーエロくなってたんだけど」
「ヘェ」
俺の調教の賜なんじゃねぇの。
「お前らさあ…別れたんだよな?」
「まあ」
「なんでよ」
「さあなあ。潮時だったんじゃね」
「物に執着なんかしねぇお前が高2のときからずっとだろ。俺がちょっかい出すだけで怒りまくってたくせによ」
「ンなこともあったな」
「てっきりケッコンでもしちまうかと思ってたぜ」
考えたことはなくはねぇけど。繋ぎとめておける鎖。
「話ってそれか?」
「俺貰ってい?」
「好きにしろよ」
もう俺には関係ねー話だ。
* * * * * *
"エロくなってた"ねぇ…
次の会議資料を作成しながら煙を吐き出すと携帯が鳴る。
電話の相手は"彼女"。
マグの珈琲を一口飲んでから通話ボタンを押す。
「なんだよ」
『今日、妖一の好きな豆貰ったから持って行っていい?』
「おー」
『じゃあ今から行くね』
「ん」
言うと切れた。
適当に片して数分後、チャイムが鳴る。
ドアを開けてやると栗色の巻き髪が目の前を覆った。
「………どした」
鍵を閉めて部屋に移動しながら聞くと、最近誰かにつけられている気がすると言う。知るかよめんどくせーな。
「電車で痴漢されるし」
「んな短ぇの履いてるからじゃねーの」
パンツ見えるぞ。
「またそんなこと言うー」
「俺も目の前にあればとりあえず手出しちまうな」
「ちょっとぉ」
ソファーに座っている彼女を抱き寄せて太股を撫でる。
「いつからだよ」
「3日前とかから」
「熱狂的なファンなんじゃねぇの」
「わかんない」
* * * * * *
読モの美里と初めて会ったのは1ヶ月程前。
雨の中会社から自宅マンションに帰ってたら傘もささずにちんたら歩く女子高生がマンションの目の前の横断歩道を渡ってた。イライラしながらも渡り終えるのを待っていたら、渡り切る寸前で突然倒れやがった。渋々車から降りてみれば意識無ぇし体熱ぃし叩いても起きねーし喋んねーし。救急車呼んで病院に連れて行って。
すげー親切。ばかじゃねーの。
それ以来隣のアパートだってのもあってかちょくちょく会って、こないだ告られた。
まあ断る理由もねぇし付き合って2週間。
未だに思い出す葉柱の泣き顔。
よく泣かせたけどあいつ程ブサイクに泣いた奴は居ねぇな。元からか。
どうしてっかな…
葉柱はなかなかどうして狙われるタイプの奴で、俺と付き合い始めは酷かった。牽制しても何でか葉柱はソッチに疎くて危なっかしい。特別かわいーわけでもねぇのになぜかホイホイ男を引っ掛けてくる。
俺からするとブサかわって感じだったからまあよかったけどな。
20歳を越えると、幼くてあどけなさが残っていたのが妖艶になって、更にエロくなった。
抱きてぇなァ。癇癪起こしちまったから無理か。
「──ちょっと!聞いてる?」
「…あ?次の撮影が特集組まれたんだろ。よかったな」
「うん」
今頃阿含とヤッてんのか。人のこと言えねーけどあいつもオカシイよな。
人のお古なんて…ヤじゃねぇ?しかも俺って分かってて抱くんだろ。
まああいつらなら気にしねぇか。大概オカシイからな。
「それでねっ」
「豆は」
「あっそうそう淹れるね」
豆は葉柱が持ち込んで以来変えてねぇ。10年近く同じもん使ってたからか他のもんは受け付けなくなった。
ったくなんなんだよなあ。