そこはまさに巨大な城郭都市だった。街の周りには水が溜められた深い堀と高い城壁が張り巡らされ、屈強な門番が立つ城門の左右には軍旗が悠然とはためいている。冷たく厳つい外観に反して中は活気に満ちあふれ、商人達が行き交い人々の明るい喧騒に包まれていた。
俺はそびえ立つ城壁を見上げて年甲斐もなくはしゃいでいたが、賢者と武闘家は腑に落ちないような顔をしている。

「おや…ちょっと見ない間に随分感じが変わりましたね」

「軍旗?どっちかっていうと宗教色が強い街じゃなかったか、ここ」

「聖十字軍なんていう箔付けのためのお飾り軍隊ならありましたけどねぇ」

「二人ともここに来た事があるんだな。俺は田舎出身だからこんな要塞みたいな街は初めてだ」

「…昔の話ですよ、勇者」

俺の仲間になる前、二人は何をしていたんだろうか。妙に魔物に詳しいのは勿論、俺みたいな駆け出しの勇者とパーティーを組むようなレベルではない事くらい見ただけでわかる。もしかしたら歴代の勇者のうち誰かとパーティーを組んでいたのかもしれない。そんな歴戦の勇士である彼らはどうして俺なんかと一緒に旅をしてくれるんだろう。
俺には何の魅力もないのに。

「ひとまず街の教会へ向かいましょうか。この街について知りたいですし」

賢者のその一言で教会へ向かった俺達は目の前に佇む廃墟同然の建物に言葉をなくしていた。古ぼけ亀裂がはいった壁や窓は幽霊屋敷のようだ。

「…え、何これ教会?」

「これは…尋常でない寂れ様ですね…」

俺達の住む世界は土着の神や精霊を祀る宗教が広く信仰されていて、大抵教会というのは街の中心となり住民に大切にされているはずなのに。

「人がいるかどうか確かめてみようぜ」

武闘家が建て付けの悪い扉を力任せに押し開く。今にも朽ち果てそうな外観とは異なり、建物内は質素ながらも人の手で丁寧に手入れされていることが伺えた。室内をキョロキョロ見渡していると、祭壇の奥に立ち聖書を読んでいたらしい背の低い老人が朗らかな笑みを浮かべながら出迎えてくれる。

「これはこれは勇者様、よくぞお越しくださいました。ご覧の通りしがない教会で何のおもてなしもできませんがゆっくりしていってください」

「あの…つかぬ事をお伺いいたしますが、この教会の廃れ様は…。この街は敬虔な信者が住人の大半を占める信仰の街だと記憶していましたが」

賢者の言葉に驚いた顔をした老神父はすぐさま柔和な笑みを浮かべた。

「おや、あなたのようなお若い方がその名前を知っているとは。いやはや長生きはするものですな」

「ブフッ。お、お若い方だって」

「…うるさいですよ」

老神父の言葉に吹き出し肩を揺らす武闘家に冷ややかな視線を向ける賢者。武闘家は何が可笑しいのだろう。賢者も武闘家も見た目は二十代の半ば程で老神父からすれば孫のようなものだろうに。二十歳過ぎたらオッサンとかそういう考えなのだろうか。
久しぶりの来客に頬を緩ませた老神父は俺達を慈しみの篭もった眼差しで見つめる。

「いかにもここは信仰の街。ですがそれも100年程前のことです。近隣諸国の大規模な戦に巻き込まれてからこの街は変わりました。今は軍隊が強力な権力を保持していて、人々は軍を盲信するあまり自らの信仰を捨てようとしているのです。おかげで教会にはいつも閑古鳥がないておりましてな…。私が子供の頃はまだ信仰深い民が多かったのですがね」

「そうだったのですか…。私達はこの辺りの出身ではないものですから少々知識が古かったようです。あなたは何故今も神父を?」

「私は昔から変わり者でしてな。信仰が生み出す救いもあると思っておるだけです」

「…じいちゃん」

優しく微笑みながらも伏し目がちになった老神父が寂しげに見えて、俺は何だか切なくなった。誰にも求められていない事をたった一人で続けるためにどれだけの勇気がいることだろう。故郷の村で何の取り柄もなく誰にも頼られなかった自分を思い出した。

「おやおや、泣かないでください勇者」

「…泣いてねーよ」

滲んだ涙を誤魔化そうと袖で目元を拭った時、蹄が石畳を力強く蹴る音が聞こえてきた。訝しげな顔をする俺達を余所に足音は段々と近付き、バンッと大きな音をたてて教会の扉が吹き飛ぶ。
現れたのは甲冑を着込み馬に跨がった屈強な男達だった。甲冑の男達は教会内に馬に乗ったまま進入し、嫌な笑みを浮かべながら俺達を見下ろしている。嫌な雰囲気にたじろいでいると、先頭の黒い馬に跨がっている男が俺を上から下まで舐めるように見つめ出す。そしてフンと鼻で笑うと馬から降り、近付いてきた。

「これはこれは。この街に勇者一行が訪れていると言うから来てみればただの軟弱そうな青年ではないか。歴代の勇者のような覇気もなければ荘厳な雰囲気もない」

「なっ、」

初対面なのに何て失礼な事を言う男だろう。確かに俺は彼らみたいに筋骨隆々というわけではないし、魔法が使えるわけでもない。魔物についての知識があるわけでもなく、剣の達人でもない。
うう、そうだった。俺は何の取り柄もないのに何故か勇者になった男だった。
言い返すどころか拭ったはずの涙が再び滲みだした俺を見て、男は馬鹿にしきった表情で言った。

「貴様のような男が勇者とは聞いて呆れるな。歴代の勇者のなかには骨のある奴もいたが…これではな。そこにいる愚かな老人のように非力なりにできることがあると信じているのだろう?その細い腕で何ができるのか教えてほしいくらいだがな」

教会に男達の野太い笑い声が響き渡る。
健気に教会を守ろうとする老神父まで馬鹿にされ、俺は目の前の男をキッと睨んだ。睨んだけれど、言葉が何もでてこない。

ごめんじいちゃん、俺口喧嘩も下手なんだ…。

どうして俺は勇者なんだろう。賢者と武闘家は俺の事を褒めてくれるけれど、あいつが言う通り俺はそこらにいる軟弱な男でしかない。
悔しいやら情けないやらで俯いていると、俺の頭に大きくて温かい掌が置かれる。ふと見上げると武闘家が俺の前に立ち、甲冑の男達を静かに見据えていた。

「弱い奴ほど口は達者なんだよなぁ。ペラペラ嫌みったらしく喋りやがって女々しいったらありゃしねーぜ。お家に帰って母ちゃんの乳でも吸ってな」

「…貴様、誰に向かってそんな無礼な口を聞いている。我々が誰だか知らないのか?」

「知りませんよこの程度の街の兵士なんて腐る程いますし」

武闘家の挑発に表情をなくし鋭い眼光でこちらを睨みつける男に対して眉一つ動かさない賢者。こんなに屈強そうな兵士に喧嘩を売るなんて何て事してくれるんだと俺はただオロオロしていた。

まだ一人で魔物も倒せないのにあんな奴らと喧嘩したら死んじゃうよ!

そんな俺の気持ちも知らずに賢者は言葉を紡ぎ続ける。

「あなたは勇者の真の力を知らないのです。強力な魔力や豪腕だけが優秀な勇者である証ではないのですよ。才能という意味であれば彼は歴代以上ですから」

「ほう、歴代以上だと?この男が?」

こめかみに青筋を立てていた男はその言葉に声をあげて笑い、後ろにいた他の兵士達も腹を抱えて笑った。殴りかかりたくなるくらいムカつくけれど、残念なことに俺は小心者のお飾り勇者なのだ。
賢者は俺を過大評価し過ぎている。俺には何の才能もないどころか、魔物に犯されるような男なのに。それどころか不可抗力だったとはいえ仲間に精液を飲ませてしまった男だ。
ああ、自分で言っていて悲しくなってきた。もう泣きたい。やっぱり勇者やめたい。

「うう゛…もういいよ賢者ぁ」

「よくありません。愚かなのはこの兵士達なんですからあなたは堂々としていてください」

「フン、そこまで言うのならその才能とやらをぜひとも見せてもらいたいものだな」

顎を触りながらシニカルな笑みを浮かべる男を賢者は真っ直ぐ見つめている。一体何処からそんな自信が湧いてくるのだろう。というか見せるも何も才能なんて始めからないのに。
呆然とやり取りを眺めているだけの俺を余所に賢者は男とどんどん話を進めていく。

「いいでしょう。勇者は逃げも隠れもしませんから」

「え゛っ?え、ちょ、」

「…面白い、では今夜君たちを夕食に招待しよう。その際に是非勇者様の実力とやらを拝見させて貰いたい」

「望むところです。ね、勇者?」

「ちょ、待って。俺なにも言ってない…!」

どうしてこうなった?この数分の間に何が起こった?理解が追い付かず黙りこくっているのを肯定と捉えたのか男は身を翻し馬に跨がる。

「お、おれっ俺はっ!」

「大尉、よろしいんですか?」

「構わん。丁度退屈していたところだ」

「あ゛!ま、待って、俺はそんなつもりじゃ…!」

驚いたような顔をしている部下にそう答えると男は必死に引き留めようとする俺を無視し、部下達を引き連れ蹄の音を響かせ去っていった。
よろしいんですか?じゃなくて止めてくれよ。これからどうしたらいいんだ。

「あいつ大尉だったんだな」

がっくりとうなだれた俺の耳に届いた武闘家の呑気な声に軽く殺意が湧いた。





「勇者、あなたの気持ちをぶつけてくればいいのです」

「ぶつける気持ちなんかないんだって!もう泣きたい…!」

夕方になるまで老神父は俺の事を気遣ってくれた。そりゃあ俺だってじいちゃんをコケにしたあいつらに一泡吹かせてやりたいけれど、無理なものは無理なのだ。
俺は大尉の元へ行きたくなくて駄々をこねて幼子のように地面に這い蹲ってみたけれど、抵抗虚しく賢者と武闘家にずるずる引きずられて城の敷地内に併設されている軍の宿舎の前にいた。

「緊張が解れるようおまじないをかけた飴をあげますから。ね?」

「子供か俺は…。嫌だ!行きたくないぃい俺は駄目勇者だから何もできないんだって!!」

口に飴を放り込まれ、もごもごさせながら愚図る俺は大きな子供だろう。笑われてもいい、行きたくないのだ。

「勇者、自分を信じろよ。大丈夫だって!」

「勇者、私があなたに恥をかかせるような事をするわけないでしょう?あなたは自分の才能に気付いてないんです。大丈夫ですよ」

「ぅう゛うう…あ、ちょ!武闘家!やめろってえ!!」

「大丈夫大丈夫。行くぞー」

痺れを切らした武闘家に軽々と抱えられバタバタ暴れてみたけれど、扉の先にいた案内役の兵士にみっともない姿を見られた俺は意気消沈して大人しくなった。がっちり抱え込まれて離してもらえず武闘家に抱えられたままの俺を見る案内役の兵士の戸惑った顔。俺は消えてしまいたくなった。

「こちらになります。では私はこれで…」

大尉の部屋の前らしき木製の扉の前で立ち止まり、一礼して去っていった兵士は最後まで困惑した表情のままだった。兵士と目を合わさないようひたすら俯いていた俺を楽しそうに抱えていた武闘家は、兵士の姿が見えなくなるのを確認し地面に降ろしてくれた。

「自分で歩けるって…」

「逃げ出さないようにだよ」

「逃げねーよ…」

「と言う事はやる気になったんですね、勇者」

しまった。そう思っても後の祭りだった。嬉しそうな賢者と武闘家の笑顔が眩しい。完全に逃げ場を失った俺は何もかも諦め扉をノックしたのだった。
これが地獄の始まりだとは知らずに。





「…どうした勇者。食が進まないようだが口に合わなかったか?」

「い、いえ、そんなことないです…っ、」


どうしよう。どうしよう、どうしよう。こんな時に身体がおかしくなるなんて…!

食事が始まって暫く経った頃、俺の身体は不自然に熱を持ち始めていた。
人当たりの良い賢者は早々に大尉と打ち解けると国の情勢や魔物について会話をしだし、武闘家はその話に耳を傾けながら黙々と料理を口に運んでいる。俺だけがテーブルの下で脚を擦り合わせながら身体の異変を悟られないよう俯いていた。
どうにか食事を口に運ぼうと身体を動かしただけで下半身にじんわりと疼きが広がる。俺は勃ち上がり始めたペニスに気付かれないよう股間を片手で押さえつけ、その刺激でビクリと跳ねた。

「っ、ぁ…!」

馬鹿だ。俺は馬鹿だ。ああ、でもこんな時に勃起してるなんてバレたら…!以前宿で勃起が収まらなくなった時と同じシチュエーションに俺は青ざめる。

「勇者?どうしました?」

「何でもな…ひっ!」

大尉の隣、つまり俺の向かいに座っている武闘家の足がテーブルクロスの下で俺の股間に触れる。膨らみを潰すようにごりごりと動かされ、俺は声にならない声をあげた。

「さっきから一体どうした。そんなに縮こまって飯を食う奴があるか。食も細いし情けない男だな」

「う゛ぅう、すみませ…」

大尉の呆れ顔に自分が情けなくなった俺はつい弱気な態度をとってしまう。

「ちょ、武闘家…!まじでやめろってぇ…!!」

「何言ってんだ勇者。俺の食いっぷりが羨ましいとか?」

「ちっげーよ馬鹿ぁ!」

「馬鹿ってなんだよ馬鹿って」

「い゛ッ、〜〜〜〜〜っっっ!!!!」

涼しい顔で白々しくそう言う武闘家を睨みつけるも、再び股間をぐりぐり踏まれビクビクと反応してしまう。
クソ大尉の前で勃起した挙げ句、武闘家に悪戯されて感じてしまうなんて。馬鹿にされてもいい、泣きたい。
恥ずかしさと屈辱に顔を真っ赤にさせて涙ぐむ俺の額に賢者のひんやりとした手のひらが当てられた。

「ふーむ…先程から様子がおかしいと思っていたらどうやら熱があるようです。勇者、大丈夫ですか?」

「熱?」

怪訝そうな顔をする大尉に賢者は心配で仕方がないといった顔を向ける。

「ええ、長旅の疲れが出たのでしょう。私達が勇者に頼ってばかりいるせいです…すみません勇者。大尉、宜しければ少しの間ベッドを貸していただけませんか?回復魔法を使いつつ、休憩させてあげたいのですが」

賢者の細く美しい指が俺の頬を愛おしげに撫でる。体調なんて悪くない、これ以上大尉にみっともないところを見せないでくれ。そう主張しようと口を開いた俺に向かって賢者は小さく頷き、ウインクして見せた。
賢者は俺が陥っている状況に気付いたのだろうか。それとも何か策があるのか。黙って醜態を晒すのは癪だったけれど、何とか身体を鎮めたい俺は大人しく賢者に成り行きを任せることにした。

「…奥の扉が客人用の部屋になっている。好きに使え。まったく…人前で熱を出して介抱される勇者なんて初めてだ」

「もやし勇者ですみませんね!ぅ、賢者…ちょ、待、」

あまりに情けない俺の姿に毒気を抜かれてしまったのだろう。刺々しかった大尉の雰囲気が微かに柔らかくなる。
俺はというと賢者に抱き抱えられ、布越しとはいえ俺の身体と賢者の身体が擦れる刺激に小さく喘いだ。
時間が経てば経つほど身体の疼きが酷くなっていく。クラクラと脳が甘い欲求で満たされ衣擦れだけで理性を失いそうになる。

「…変な男だ」

客室に運ばれていく俺を怪訝そうな顔で見つめていた大尉に武闘家は笑いかけた。

「でも可愛いだろ?」

「馬鹿か貴様は。何を言っている」





賢者は俺を客室まで運ぶと、ベッドに優しく横たえ俺の唇をそっと撫でた。それだけで背筋がゾクゾクして切ない疼きに襲われる。

「ふふ、こんな時にほしくなったのでしょう?」

「ふ、ぅ、や、なんで…!」

「こんなにいやらしい顔をしていたら誰だってわかりますよ。先ほど会ったばかりの人間の前でこんな痴態を晒すなんて大胆ですね」

耳元でくすぐるように囁かれて俺は肩を竦める。ハッハッと犬のように浅い呼吸を繰り返す俺に啄むような口付けをした賢者は、スルスルと俺の服を脱がしていった。ぼやけた頭と火照った身体では抵抗らしい抵抗もできず、なすがままの俺に賢者が微笑む。
禁欲的な細い鼻梁に長い睫毛に縁取られた翡翠色の瞳。宗教画の天使のように美しい賢者が俺の素肌に頬を寄せる様は背徳的でもあった。

「可愛いですね」

目を細め柔らかい表情を作る賢者に気恥ずかしくなる。
賢者と比べれば俺なんて月とスッポン、いやそれ以下かもしれない。人目を引く程美しいわけでもなければ、小悪魔のように愛らしい顔をしているわけでもなく、もちろん凛々しく精悍な顔でもない。
顔も身体も中身も人並みのつまらない俺が興奮してハアハア言っている姿なんて気持ち悪いだけじゃあないだろうか。

「け、じゃ…!からだ熱いぃ、へん…っ」

「すぐ隣に武闘家と大尉がいるというのに仕方のない人だ」

「も、言うなッ、あ゛ッッ!そこ、何…!?」

食事の場を抜け出していやらしい事をしている。恥ずかしいはずなのに身体の疼きは増していくはしたない俺。
それをからかうようにクスクスと笑いながら賢者は俺の乳首をきゅっと摘む。途端に痺れるような快感が生まれ、俺は目を剥き仰け反った。

「もう乳首で気持ちよくなれる身体になっちゃったんですか?」

「あ゛!あ゛!やだ!ひっん、それだめぇッ!!」

ぐにぐにと出もしない母乳を絞るように指を動かされ、俺は涎を垂らして悦んだ。
おかしい。こんなのおかしい。乳首で目の前が真っ白になる程感じるなんて。こんなの俺の身体じゃない!!

「はぁッはぁッ、賢者、やめて、おかしいっ、あ゛ーっ!!」

未だかつて感じた事のないような快楽に恐怖を感じた俺は身体を弄ぶのをやめるよう必死に懇願する。涙目の情けない俺に微笑みかけた賢者は、やめるどころか俺の勃ち上がりカウパーに濡れたペニスを一撫でした。
腰が砕けそうになる程の衝撃に俺は思わず叫び、慌てて口を手で塞ぐ。

「ちょっと触っただけなのにそんな声をだして…ここもいつになくびしょびしょですし。本当、今日はどうしたんですか?」

「し、知らな、も、駄目だって…っひ、ッぃ゛!あ゛!あッ!」

少し意地悪な顔をした賢者にごしごしとペニスを擦られて俺は悶え狂った。あまりの快感に視界が明滅する。背中に擦れたシーツの感触さえ気持ちよくて俺は頭を振りたくった。

「ん゛、ぐぅう、そな、したらッ…も、んん、ふ、ぅ、」

出そう。そう言い掛けた俺の口を賢者の口が塞ぐ。熱くぬるついた舌に口内を荒々しくまさぐられて俺の理性は崩壊寸前だった。
賢者の舌が俺の舌を吸い、時折上顎を撫でる。右手は俺の乳首を押し潰すように擦ったり、痛いくらいの力で摘んだり。左手は俺のペニスのカリ首を指の腹で刺激するように擦っている。
三点を同時に責められて俺はガクガクと全身を痙攣させた。

イく。もうここがどこかなんてどうでもいい。耐えられない。出る!!!

快楽のうねりに飲み込まれようと目を固く閉じた時だった。賢者が俺の身体からすっと離れる。
甘い期待を裏切られ行き場を失った欲求が土石流のように全身を駆けめぐり、俺は思わず賢者に縋った。

「や、なんでっ出したいぃ…!」

「だって客室とはいえ人様の部屋を汚すわけにはいかないでしょう?」

思わず自分のペニスに手を伸ばした俺を制して賢者はさも当然のように言う。俺は射精の事しか考えられず、賢者が言った事を半分も理解できずに駄々っ子のように首を振った。
イかせてくれない。それだけで賢者が意地悪な悪魔に見えてくる。

「やだ、身体熱い、っ、イきた、ぃあ゛ッ」

どうして触ってくれないのか、そう思った瞬間、カウパーでぬらぬらと光る敏感になった性器を悪戯に撫でられ俺は悲鳴をあげた。賢者はイくには物足りない絶妙なタッチで俺の性器を嬲る。

「触ってあげてもいいですが、出しちゃ駄目ですよ」

「あ゛!あ゛!…っひ、ん、」

我慢できずにペニスを扱こうとする度に賢者に腕を捕まれ、俺は癇癪を起こした子供のように泣き叫んだ。
心なしか楽しげな賢者の表情を気にする余裕など今の俺にはない。ここが客室である事も、大尉に馬鹿にされて悔しい思いをした事も、自分が勇者である事も。すべてどうでもよくなってしまった。
どろどろに理性が溶けていく。イきたい。もっと強い快楽がほしい。今の俺を支配するのはただそれだけだった。

「ふふ、辛そうですね。出したいですか?」

汗ばんだ額を賢者に優しく拭われる。俺は必死に頷いて賢者に腰を突きだした。

「おねが、触って、ひぐっ、おしりでも何でもいいからぁ…っ!出したいッはやくッ」

「ですから勇者、ここは客室なので汚すのでしたら持ち主に許可をとらなければなりません。」

「じゃあ許可とってぇっ!も、おかしくなる!ちんこ触りたいぃい」

「おやおや、とんでもない事を言っていますね。でも駄目ですよ」

そう言ってにこにこ笑う賢者は俺に拘束の呪文をかけると部屋から出て行ってしまった。一人取り残されおまけに身動きがとれない俺はペニスでもアナルでも何でも良いから快楽が欲しくて、しかしままならなくてグズグズと鼻を鳴らす。
そそり立ったペニスの鈴口から漏れたカウパーがぷっくりと透明な玉を作り、崩れて流れていく様は何だか滑稽で。ぷるぷる切なそうに震えるペニスをごしごし擦りたくて俺は飢えた犬のような情けない声をあげた。

「ぅうう゛せーし出したいッ賢者っはやくぅ…!」

その時だった。バタン、と扉が乱暴に開け放たれる音がして俺の心は歓喜に満ち溢れた。



「な…んだこれは」

ようやく楽になれる。そう安堵した俺の耳に届いたのは大尉の声だった。




back