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ゆめのまたゆめのゆめ

 揺蕩う意識。揺れる肩。――柔らかい、花の香り。
「リコリス?」
 寝苦しそうに、眉を顰めていた傍らの少女が、うっそりと睫毛を震わせ、目を開く。血に濡れたような瞳が、眠たげなまま、青年を見上げた。
「エッシェ」
 声の震えと同時に、かたかたと歯を鳴らす音が、聞こえて。躊躇なく少女を抱きすくめる。――折れてしまいそうな程に、か弱い彼女はその行動で安堵を得たのか。
「エッシェ、何か……飲み物、ないかしら」
 目を瞬かせる。息を吐いて、微笑み。青年――エッシェは直ぐに言葉を返した。
「いい紅茶があるよ、確か前に君が好きだって言っていたやつ。あと……ああ、そうだ。フルーツがいっぱい乗ったタルト。買ってきたのがあるよ」
 お茶にする? と、問い掛け小さく首を傾げる。
「たべたいわ……」
こくり、頷いて。さらり、銀紫の髪が風に靡き。
「……でも、もう少しお昼寝、したい」
 きゅ、と。青年の裾を掴む手に少しだけ、力を込める。
「そっか。じゃあ、おやすみ、リコリス」
「おやすみ、なさい。エッシェ」
 擦り寄って、吐息と共に言葉を放つ。うとうとと落ち掛けた瞼は幾度か瞬きを繰り返す。体温が心地良いのか、それも長くは持たず、涼やかな風が吹き込む大樹の根元で、少女は静かに寝息を立てる。青年はただ、幸せそうな笑みを浮かべて、銀紫の髪を指で梳いた。

(嗚呼、何て、幸福。)

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