夢のあとさき
29

目覚めたのはものすごい衝撃のせいだった。見渡すと、私は何か乗り物に乗っているようだった。
「……大破は免れたな」
「ここは……」
「姉さん!目が覚めたんだな!」
ロイドがずいと顔を近づけてくる。私は目を丸くして頷いた。
「う、うん」
「急にどうしたんだよ、心配したよ」
「何だろう……何だかふわふわして……。今はもう大丈夫だよ」
あの感覚は消え失せていた。ほっと息をつく。また急に意識を失うなんてことはないと思う。
それにしても、とロイドを見上げる。ここはどう見てもさっきまでいたレネゲードの基地ではない。もしかして……逃げ出してきたのか?
「ロイド、ここは」
「テセアラだよ」
話を聞くとロイド達はコレットの天使疾患を治す術を求めてクルシスの輝石の研究が行われているテセアラの王立研究所を目指すことにしたらしい。テセアラに行くための手段としては、レネゲードの基地にレアバードという乗り物があり、それを無断使用したんだとか。さっきの衝撃は燃料不足による墜落だったらしいけど、それまでは何と空を飛べていたというのだから驚きだ。
「それよりも姉さん!さっきのレネゲードのリーダーの奴が言ってた約束ってどういうことだよ!」
「そうね。私もそれは聞いておきたいわ」
レアバードから降りた途端ロイドとリフィルに問い詰められる。私はどうやって答えればいいか迷った。
ユアンとの約束にはユアンのことを口外しないというものもある。こうして逃げ出してきてしまったのだからもう約束は反故にされた同然なのかもしれないけれど。
「えっと……うん、一人で旅してるときに、レネゲードの人に助けられて……。それで代わりに協力することになったんだ」
嘘は言ってない。たぶん。リフィルの視線が痛い。
「何に協力する約束だったのかしら?」
「それは知らなくて……」
「知らないのに約束したのかよ!姉さん、もーちょっとよく考えてくれよぉ」
「レティらしくないね」
「そ、そうだね」
確かに迂闊ではあったけど、あの時はそうするほかなかったし。実際ユアンは約束を守ってくれたけど、私は守らなかった。どうしよう、また私やロイドをつけねらってくるんだろうか。
私の行方は渡された腕輪を通して筒抜けなはずだ。そう思って嵌めていた腕輪を見ると、見事にヒビが入っていた。
「……あ」
壊れてる、のか?救いの塔での戦闘のせいだろう。ど、どうしようとうろたえたがロイドがこっちを見ていたので慌てて隠して考えるのは後回しにした。
墜落したレアバードは動かしようもなく、かつ燃料が足りない。今の私たちにはどうしようもなくその場から進むしかなかった。
テセアラの空にも救いの塔がそびえたっているのが見える。どうしてテセアラにも……?と不思議に思っているとジーニアスも同じことを思ったようでしいなに尋ねていた。
「救いの塔は繁栄世界に出現するんだ。そっちだって、コレットが神託を受けたから、救いの塔があらわれたんだろ?」
「二つの世界。二つの塔……。聖地は?こちらにもマーテル教はあるのでしょう?聖地はカーラーンなの?」
リフィルが疑問を続ける。どうやらどちらの世界にも古代大戦の停戦調停場所とされている聖地カーラーンが存在するらしい。
テセアラの民は月に行ったと伝えられていた。だが、同じ場所がどちらの世界にもある。二つの世界は元々一つだった……?それまでの歴史が同じなのだとすると、そう考えるのが自然だろうか。
とにかく山岳の険しい道を降りる。ここはフウジ山岳というらしい。
ちなみにロイドは向かう先を全く把握していないらしかった。王都メルトキオ……テセアラには王制が敷かれているままらしい。そこに、王がいるという話だった。



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