夢のあとさき
19

ロイドはクヴァルが母の仇だということを知っていた。親父さんは母がディザイアンに殺されたのだということをちゃんとロイドに言ったのかな。
クヴァルを無事に倒した私たちだったが、それよりも大きな問題があった。コレットのことだ。既に三つの封印を解放して回ったコレットは――触覚を失っていたのだ。
それが判明したのはロイドがクヴァルに斬りかかられたのをコレットが庇って怪我をしたせいで、油断していた自分に腹が立つ。どうやらロイドは前から知ってたみたいだけど、コレットに口止めされていたんだろう。
コレットの怪我を癒すために私たちはアスカードに戻った。宿でコレットを休めて、これからどうするか考える。
私は宿の外に出て、ノイシュに会いに行っていた。ノイシュもこの旅に、というかロイドについてきてたのだ。
「ノイシュ、久しぶり」
「クゥーン」
「ロイドと一緒にいてくれたんだね。ありがとう」
ノイシュの頭を撫でる。すり寄ってくるノイシュはかわいい。
彼は、私たちが親父さんに拾われる前からずっと一緒にいてくれた。ロイドは犬だと言ってるけど、確か犬じゃなかったと思う。昔お父さんに聞いたら教えてくれたのだが、もう忘れてしまった。
「ノイシュはお父さんのこと、覚えてる?」
「クゥーン、クゥ」
「覚えてるのかな。いいな、私、忘れちゃったよ。お母さんのことも、顔も……覚えてないよ」
言葉にすると涙が出てきそうだった。きっと、お父さんが生きていても、私のことなんか分からないと思う。そのはずだ。
だからさみしいけど仕方ないし、どうしようもないことなのだ。私はもう誰かをお父さんと呼べない。そう思う。
ふと人の気配がして振り返ると、そこにはクラトスがいた。長い前髪のせいで表情が良く見えない。
「何か……」
「お前は、何を探して旅をしていたのだ」
私はすぐには答えられなかった。クラトスのことはよく知らないから答えていいのかという迷いもあった。
でも、彼はロイドたちも信用している様子だった。再生の旅を共にして深まるものがあったのだろう。
「私は、コレットを助けたい。この世界のいびつさを正す方法がほしい」
「いびつさは、神子が世界再生を成し遂げれば正されるものではないか?」
「それじゃないよ。いびつなのは神子しかマナを増やせないというこの世界の構造だ」
クラトスは何か考え込んでいるようだった。結局私の言葉になにか言うことはなかったけど。
「旅についてくるつもりか」
「……神子について、隠されているものが多すぎる。封印だって神子しか入れないだろう。神子に着いて行ったほうが判明することが多いと、考えている」
「そうか」
クラトスは「好きにするといい」というと背を向けてしまった。私が旅に着いてくるかどうか、それだけが知りたかったんだろうか。
彼は旅の傭兵らしい。神託があったときにたまたま居合わせて、コレットたちを襲ってきたディザイアンを退けてくれたという話を聞いた。仕事である以上神子を守ることに責任を感じているんだろうか……じゃなくて。
「クラトス!」
慌てて呼び止めた。言ってないことがあったから。
「ロイドたちのこと、助けてくれてありがとう」
「……ああ」
クラトスは振り返らなかったけど、私はちょっと満足した気分だった。


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