夢のあとさき
20

ロイドたちはユウマシ湖でユニコーンを見たことがあるらしい。それで一つ思い出した。
「ボルトマンの術書の治癒術で、ユニコーンの角を使っていなかったっけ?」
「レティ!あなた、ボルトマンの術書を読んだことあるの!?」
「リフィル、締まってる締まってる」
興奮したリフィルに胸ぐらを掴まれてぐえっと潰れたカエルのような声が漏れてしまった。
「ま、マナの守護塔に行ったから……」
「なんだと!」
「怖いよリフィル。再生の旅についての資料探してて、それでボルトマンの術書もちょっとだけど読んだんだよ」
ロイドたちもピエトロについては知っているらしい。だが、ピエトロだけではなくコレットの疾患ももしかしたらユニコーンの角を使った治癒術で治せるんじゃないかと思った。
「でも、ユニコーンは湖の底にいたから会うのは難しいんじゃないかな」
「ジーニアスの魔術でも?」
「あの深さだと無理だよ」
どうやら無理らしい。すごい長いチューブで息を確保するとか……ダメか?
「方法はなくはないよ」
そう言ったのはしいなだった。思わずすごい勢いで振り返ってしまう。
「どういうこと?」
「こっちの世界にいるはずの……ウンディーネを召喚して、水のマナを操ればいいのさ」
「ウンディーネって、精霊の?」
「精霊を召喚するったって召喚士がいないじゃないか」
ジーニアスとロイドが首を傾げる。その疑問はもっともだ。
「……あ、あたしが。まだ契約はしてないけど、契約さえできれば……召喚できるよ」
「しいなって召喚士だったの?」
「符術士だよ!……召喚もできるけどさ」
そうなのか。私たちはしいなに水の精霊との契約を依頼することにした。
だがひっかかることがある。「こっちの世界」にいるというウンディーネ。そして失われたはずの召喚士の技術を持つしいな。こっち……という言い方にはまるでもう一つ世界があるようだった。
「考え過ぎかな……」
「どしたの?」
そうつぶやくとコレットが顔を覗き込んできた。まあ、今は考えなくていいか。コレットの体を治せるなら協力してもらうべきだろう。
「なんでもないよ。コレット、治ると……いいね」
「うん……」
「……ごめんね」
俯いたコレットに呟く。「なんで、レティが謝るの?」と聞かれたので私は首を振った。
「約束守れなかった。ごめん」
「しかたないよぉ。ディザイアンにも追いかけられてたんでしょう?私、レティが無事で良かった」
「約束を破ったのは事実だよ。コレットが怒ってないのは知ってる。でも、傷つけちゃったと思う。悲しい思いをさせたから、ごめん」
コレットは困ったように微笑んだ。実際にきっと寂しかったんだろうと思う。
「コレットがつらい思いをしてるのに、一緒にいられなかった。コレットのこと、助けてあげられない」
「私が天使になるのは決まってたことだよ?レティ、そんな顔しないで」
「決まってなんかない!」
思わず声を荒げてしまう。ロイドたちが一瞬こっちを見たので慌てて声を潜めた。
「決まってなんかないよ。コレット一人が責任を負わされて、コレット一人が苦しむ必要なんてないはずなんだよ。絶対におかしいよ……」
「レティ……」
おかしいはずなんだ。でも、私はなにがどうしておかしいのかまだ見つけられずにいる。
唇を噛むとコレットが私の手に触れてきた。私よりも小さな手を握り返す。
コレットは、この手のぬくもりを感じることができないんだろう。無性に泣きたくなったけど、その資格はないと思った。


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