夢のあとさき番外編
王城からの招待状-K

「んー、おいしいし多分平気だよ」
ちょっと心配そうな顔をしてリーガルが言ってくる。けど、温かい紅茶とお酒の組み合わせはゼロスが言った通りイケてるし、味も嫌いじゃないので飲み切るのは問題なさそうだ。
「レティちゃん結構お酒イケるタイプ?じゃあー、ワインとかどうよ」
ゼロスが楽しそうに勧めてくるのでありがたくいただく。透明なワイン――白ワインはフルーティな香りがして飲みやすい。リーガルがナッツの乗った皿をこちらに寄せてくれたのでそれにも手をつけてみるが、なかなかいい組み合わせだと思った。
「ではこちらはどうだろう。少し強い酒だが」
「お、ブランデーか」
リーガルも酒瓶を一つとって氷を入れたグラスに注いでくれた。匂いだけでちょっとクラッとするくらい、確かに強いお酒だ。喉を通るとカッと熱くなるけど、風味は豊かで好きな味だ。
「お酒って結構おいしいんだね」
「ひゃひゃひゃ、オトナの階段登っちゃったな〜!」
「あまり飲みすぎるのも良くないが。他にも試してみるといい」
気分もなんだかよくなる。注がれるままにお酒を飲んで、主にゼロスとリーガルが貴族の勢力図だとか国内の情勢だとかを話してるのに耳を傾けるのも、こう言うと子どもっぽいが――なかなか大人めいた体験だ。
何杯目かのグラスを飲み干したところで誰かの足音が聞こえてきた。なんだか聴覚が上手く調整できなくて敏感になってるようだ。
「誰だろ」
「え?どうした?」
ゼロスたちは気づいていないみたいだったが、気にしないで立ち上がる。ちょっとふらついたけど問題ない。そのままサロンのドアまで歩いていって開けると、目の前にはクラトスが立っていた。
「あ、お父さん。どうしたの?」
いい気分のままクラトスを見上げる。クラトスはなんだかすごくしかめ面をして、そしてそのまま私を抱き上げた。
「わっ!」
急に抱き上げられたのでびっくりしたけど、お父さんの抱っこなんて何年ぶりだろう。なんだか嬉しくなって首にぎゅっと抱きついた。
「……酔っているな」
「え?酔ってないよ?」
「レティちゃん、顔じゃなくて行動に出るタイプだったかー……」
「すまない。ご息女を付き合わせてしまったことを謝ろう。うむ……その、いい飲みっぷりだったのでな。つい」
「そうか……」
なんかゼロスとリーガルが言ってるけどクラトスがため息をついた理由がわからなかった。機嫌が悪いのかな。お父さんも一緒にお酒飲めばいいのでは!
「お父さんもお酒飲もう!」
「……それはまた今度だ。今日はもう寝なさい」
「わかった。一緒に寝てくれるんだよね?」
首をかしげる。お父さんは一瞬固まったかと思うと、素早くサロンから出て階段を上り始めた。そして私の部屋へと迷わずたどり着く。
上着を脱いで――というかお父さんに脱がされて、ブーツも脱いでベットに寝かされる。けどなぜかお父さんは出て行こうとするので慌ててマントの裾を掴んだ。
「お父さん?」
「……悪いが、共に眠ることはできない」
「え?どうして?」
「おまえはもう大人なのだぞ」
「私はお父さんの子どもだよ」
言ってる意味がわからない。ベッドが狭いわけじゃないのになぜダメなのだろう。ぐいぐいとマントを引っ張りながら見上げるとやがてお父さんは諦めたように息をついた。
「今夜だけだ」
「えー、ずっとがいい」
「まったく……」
とか言いつつお父さんもベッドに横になってくれたので安心する。思えばこうしてちゃんとしたベッドでお父さんと一緒に寝るのは初めてかもしれない。
「いっつもいっしょがいいんだけどなぁ」
寝転がってしまうと眠気が襲ってくる。お父さんがまたどこかに行ってしまうかもしれないので、思い切り抱きついた。
「……そうか」
「そうだよ……ずっといっしょがいい……」
うとうとして意識が保てなくなる。お父さんが髪を梳いてくれるのを感じながら私は眠りに落ちた。

意識がゆっくりと浮上する。ううん、と自分の唸り声が聞こえた。真っ暗な視界から、瞼を開けると光が差し込んでくる。
「あさ……」
上体を起こすと真っ先に頭がぐわんと揺れる感覚に襲われた。我慢できないほどではないがなぜかズキズキと痛む。とっさに痛覚を遮断して、そしてあたりを見回した。
何か足りない。何が足りないんだろう?というか、昨日は寝る前何をしてたんだっけ。
パーティーでろくに食べられなかったせいでお腹がすいて、どこか食べに行こうと思ったらゼロスとリーガルがお酒飲んでるのを見つけて。軽食を食べさせてもらった後私もお酒を飲んで……それて……。
そうだ、クラトスだ。クラトスがなぜか知らないけどサロンまで来たんだった。そしたら抱っこして寝室まで連れて行ってくれたんだ。もう足は痛んではないのに、心配性なのだろうか。
で、昨日はそのままクラトスと一緒に寝たんだった。だが今私の部屋にはクラトスの影も形も見当たらない。私は急いで着替えてブーツを履き、顔を洗って髪を整えると階下に向かった。
「あ、レティ。おはよう!」
もう起きていたコレットに声をかけられる。私も挨拶を返した。
「おはよう。クラトス見なかった?」
「クラトスさん?食堂にいるんじゃないかな。いっしょに行こうよ」
ニコニコとコレットが言うので頷く。果たして食堂には、私とコレット以外がほとんど揃っていた。
「お父さん!」
挨拶もそこそこに私はクラトスの席に近づく。クラトスは眉を上げただけで、隣のロイドの方が驚いた顔をしていた。
「なんで起こしてくれなかったんだ」
「……覚えてるのか?」
よくわからないことをクラトスが言ってくる。私は腕を組んだ。
「とぼけても無駄だからね。先に起きたら起こしてくれてもいいでしょう!なんで起こしてくれないの!」
「姉さん、何言ってんだ?クラトスに起こしてもらう約束でもしてたのか?」
なんだか困惑気味にロイドが言ってくる。ああそうか、ロイドは知らないのか。
「いや、一緒に寝たんだから朝起こしてくれてもいいんじゃないかという話」
「……一緒に寝た?」
「うん。昨日はお父さんと寝た」
ロイドはまじまじと私の顔を見た後、クラトスを見上げた。クラトスは首を横に振った。
「違う……!違うのだ……!」
「え?違わないよ」
「レティ。ひとまず落ち着いて朝食をとったらどうだ」
なぜかリーガルに声をかけられる。落ち着いて、と言われても。みんなを見回すと神妙な顔をされたので私はとりあえず席につくことにした。夜食を食べたせいでお腹は空いてないけど。
「レティ、クラトスさんと一緒に寝たの?仲良しだね」
「うん。お父さんと寝たの久しぶり」
「……レティちゃん、やっぱ酔ってなかったんじゃねえ?」
「そうかもしれぬな……」
ゼロスとリーガルが頭を抱えてるけどどうしたんだろう。
ちなみにこの後事情を話すと、しいながゼロスにアッパーを食らわせていて、リフィルがクラトスを慰めてるんだか励ましてるんだか声をかけていた。
……私が悪いのだろうか?

(fin)


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