OTG | ナノ


睡眠時間およそ3時間。
正直これでも随分善処した方だと思う。あの精神状態からスリープモードに入るのにどれだけの努力を要したことか…!

ひたすら羊を数え続けて気付けば眠っていた。400匹手前まで数えていたのは覚えてるけどそこから先の記憶がないあたり、なるほど羊カウントにも効果があったのかと少しだけ関心する。


――で、学校に来てみればやはり普段と一切変わりのないエースのおでましだ。こっちが寝不足でぐったりしてるっていうのにその元凶がここまで元気100%だなんて、心底腑に落ちない。


「ねえなまえー、放課後遊びいこ?」
「ネムイデス」
「インスタ映えしそうなカフェ見つけたんだよね!」
「いや、わたしインスタしてないし…。」
「いいから!ほら!」
「わっ!」


強行突破に出たネネに椅子から引き剥がされたかと思えばグイグイと腕を引かれてエースの席の隣に立たされる。ええっ、なんなの?
その急すぎる展開に、見下ろされる形になっているエースの頭上にも大量の疑問符が飛び散らかってる始末だ。お気持ちは察します。


「…えっと、俺なんかしたか?」
「ちがうちがう!なまえの席からだとコンセント届かないからちょっとの間だけ入れ替わってほしくて!」


愛らしいスマイルを浮かべたネネが椅子からエースのことを押し出すと、今度は空いたそこにわたしが座らされ、机の上にコテやらピンやらがずらっと並べられていく。

「なんだ?髪いじんのか?」
「そうそう!放課後遊びに行くから可愛くしちゃおうかなーって!」
「ふーん」

大人しくわたしの席へと腰掛けたエースがコテを手に持ち、慣れない手つきでカチャカチャと弄りながら頭部を見つめてくる。
…すこし、ほんのすこーしだけ嫌な予感がする。その異様な目の輝きが怖いんだけど…!


「なあ俺にやらせてみろよ」

ほらきた!
言うと思ったんだよ!

「絶っっ対やだ!ぐしゃぐしゃにされそう!」
「なんでだよ!しねえよ!」
「まあまあふたりとも落ち着いて!ちなみにだけどエースって女の子の髪いじったことあるの?」
「1回もねーけど」


ないのかよ!なおさら怖いわ…!
ネネの問いかけに自信満々で返したエースへと白けた視線をビシバシ注ぎ込む。


「まあでも出来る気がする」
「手先器用だもんねー」
「それな!」
「物は試しにやってみたら?」
「ちょっと待って!タンマ!ふたりで話進めないで!」
「これで髪挟んで巻けばいいんだろ?」
「そう!それだけ!」
「ちょっ、」
「よし任せろ!」


必死の叫びも虚しく終わった。
目の前のふたりの人の話を聞かない具合が酷い。酷すぎる!

……だけどこうなってしまったものは仕方がない。


くれぐれも失敗だけはしないでくれよ!頼むから!左隣へと移動してコテで髪を巻き始めたエースに目配せすれば「なまえの髪やっぱいい匂いだな」と笑顔を向けられて、思わず顔を背けてしまった。

そして、そのせいでコテが一瞬耳に触れる。

「あっつ!」

熱さなのか痛みなのか判断し難いその刺激に、ぞわっと変な汗が出て。咄嗟に耳を手で覆うものの、直ぐさま手首をぐいと引かれて代わりに何か冷たいものが充てられた。ちょっ、若干水っぽい気がするんだけどなにこれ…?


「悪い!大丈夫か?!」
「大丈夫だけどそれよりこれって、」
「さっきサボから貰ったウイダーゼリー!冷えてんだろ?」
「たしかに冷えてはいるけど…。」


耳にウイダー当ててるって絵面がだいぶおかしなことになってると思うんだ。絶対バカっぽいでしょこれ!


「まあ多少バカっぽいけど背に腹は変えられねえしな」
「笑うな!」
「笑ってねーよ…ぶふっ!」
「チェンジで!ネネとエースチェンジ!」
「いいから大人しくしてろって。また火傷すんぞ」
「た、助けてネネ!」


引き続きクルクルと髪を巻くエースを他所にぎゃあぎゃあと騒ぐも「イチャつかないでくださいー」なんていとも容易くネネちゃんに見放されてしまった。世知辛い!


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