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「……俺センスあんじゃね?」
「てか普通に上手くない?」


手鏡に写る自分を見て唖然とした。
や、だってまじで上手じゃん…!なにこの絶妙なゆるふわ!いい!めっちゃいい感じ!


「なまえ、俺の学バからワックス出して」
「開けていいの?」
「おー」


言われた通りにエースのペタンコな学生鞄を開けると、中身が少ないのが幸いしてかお目当のものはすぐに見つかった。淡いブルーの丸っこいのと、グレーのキューブ型のモノ。ま、まさかの2種持ち!


「どっちにする?」
「えっ?」
「ちなみに丸い方がいつも俺が使ってるやつで四角いのが、」
「丸い方でお願いします!」


エースがいつも使ってるのってアレでしょ?爽やかっていうか控えめな甘さっていうか、とにかくめっちゃいい匂いするやつ…!ってことで丸い方の蓋を外すと、背後から伸びてきたエースの手がワックスの表面をぐりっと抉った。

そして、巻いた髪を崩さないように優しい力加減で髪にワックスが馴染まされていく。
うわあ、大好きな匂いに包まれて気分は最高!すっごい高まる!


「この匂いまじでツボすぎる!」


正面に回ってきて顔周りの髪を弄っていたエースに話しかけると、聞き慣れたと言わんばかりに「ほんと好きだよな〜」なんて楽しそうに笑うので、つられるように頬を緩めて言葉を続けたのだけれど。


「うん、好き!めちゃくちゃ好、…き」
「っ、……。」


なんだか可笑しなタイミングで可笑しなところを意識してしまった。おかげで言葉は詰まり、驚くほどの猛スピードで顔が熱く火照る。向かいでも口をぎゅっと一文字に結んだエースがみるみるうちに頬を赤く染めあげて。

一方、スマホを弄りながらその様子を黙って見ていたネネがぎょっと大きく目を見開いた。


「えっ、…え?なに?アンタら今ワックスの話してたんじゃないの?なんで2人して顔真っ赤にしてんの?」
「赤くねーよ!」
「いや赤いって!」
「赤くねえ!」


ネネと言い合っていたエースの右手がふと前髪に触れる。そしてそのままふわりと緩く纏められたかと思えば、机の上にあったヘアピンで固定されたらしく、上手いことポンパドールが出来上がっていた。

「おおっ」

いつだかにネネがしていたのを覚えてたのかな。それにしても記憶ひとつでここまで出来ちゃうなんてすごい!凄すぎる!


「お、お見事…!」
「だろ?」


そんじゃ俺手洗ってくる!と、ワックスの付いた両手をひらひらさせ、機嫌良さげにくるりと体の向きを変えたエース。

「あっ、」
「ねえ、エース!」

お礼を言おうと慌てて呼び止めようとするも、少し離れたところからこちらの様子を伺っていたらしいクラスの女子4人組がこぞってエースに声をかけ始めたので咄嗟に口を噤んでしまった。


「さっきから見てたんだけどエースめっちゃ器用じゃん!」
「ほんと!あたしのもやってよ〜」
「だが断る!」
「えー!なんで!」
「なんでも」


うわっ、出た!
風の噂で聞いたところによると、女の子達はエースのあの悪戯っ子スマイルに弱いらしい。現に、ここから見える4人の表情からもその噂の信憑性が伺える。


「お願い!やってよ〜!」
「ちょっ、離せって!」
「お願いお願いお願い!」


ひとりの子が胸を押しつけるようにして腕に絡みつくと、わかりやすく言葉を詰まらせたエースがなんとも言えない表情でその子の髪をくしゃりと乱す。


「わっ!いい匂いー!」
「お前もこの匂い好きなの?」
「好き!めっちゃ好き!」


ふにゃりと可愛らしい笑顔を浮かべて言うその子を他所に、落ち着きなく腕へと視線を落とすエースを冷ややかーな眼で見やる。押し付けられた胸を意識するな!あからさまに嬉しそうな顔しやがって変態エースめ…。


「…ね、なまえ?」
「ん?」
「それ、ヤキモチ?」
「……は?」
「あっち見ながら不機嫌オーラバンバン出てるけど」
「ちっ、違う!まじで違うよ!」
「じゃあ聞き方変えるけどさ、なんかあったんでしょ?エースと」
「っ、!」


ちらり。ゆっくりと視線を向ければ、そこにはとてつもなくいい笑顔を浮かべたネネちゃんがいて無意識のうちに右頬が引き攣った。


「い、いやあ…。」
「言え」
「別になにも、」
「吐け」
「なにこの感じたことのない威圧感!美人の圧力怖い!」
「いいから言う!ほら早く!」
「うわっ!ちょっと何処行くの!次の授業は?!」
「サボる!」
「ええっ!」


とまあその宣言どおり、授業そっちのけで屋上に連行されてすべてを洗いざらい聴取されたのは言うまでもない。敏腕刑事もビックリするであろう取り調べスキルだった。うおお…。

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親友にバレる。
更新遅くなってすみませぬ…(´;ω;`)
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