2-3 「ぉ、わ、」 「ハナ、大丈夫か?足首をひねったりしていないか?」 「だいじょーぶ!よろけただけ!」 バシッ、という音とともにダイアゴン横丁へ降り立つ。 着地の際によろけたらセブに抱き上げられた。やっぱりか。 それよりもそう、ダイアゴン横丁である。 天下の台所に位置している!あの!ダイアゴン横丁! 残念ながら過保護な親のおかげでダイアゴン横丁に立っていた時間は十秒もないがな! 聞くところによると卿はダイアゴン横丁に店を構えたらしく、ケーキ屋さんの外観の最後の仕上げを今日するらしい。 …ケーキ屋さん完成してないじゃんよ。 「こっちだ、こっち!」 「はしゃがないでください我が君」 セブの腕の中から周囲を見回すと遠巻きに眺めている人が多い。 そりゃあなー、ついこの間まで闇の帝王と呼ばれてた人が横丁ではしゃいでたら、ある意味恐怖だよなー。 私に好奇の視線が注がれないのは卿が近くにいるのもあるけど、今日してきた格好も原因だと思う。 セブが買っていた耳付きの、というより耳を隠すための帽子。 耳の部分が空洞になってるから耳を無理矢理折り畳まなくてもいいというスグレモノだ。 というよりどこで見つけてきたんだろう。 あとはふんわりしたポンチョで尻尾も隠せば、そこら辺にいる幼女となんら変わりはない。 人間の姿で外に出れるって素晴らしい…! 「ついたぞ!ここだ!」 テンションたっかいな、おい。 そして店もでっかいな、おい。 パステルカラーでまとめられた外観にお店の看板だけがかかっていない。 扉をあけると可愛い鈴の音が鳴り、内装もパステルカラーで統一されている。 ……あれ、卿ってこんな乙女趣味だったの? 「我が君、お帰りなさいませ」 「おぉルシウス!あとは看板つけるだけだな、俺様ウキウキしてきた」 「言われていたケーキもレシピを用意しましたので、いつでも作ることができます」 「ケーキ作るのはルシウスに任せた」 ニコニコ気持ち悪いくらいに笑うルシウスさん超怖い。 いや幸せそうで何よりなんだけど。 闇陣営とパステルカラーのミスマッチ感凄い。 「……しゅーる」 「…我が君は何をなさるので?」 「愚問だなセブルス。俺様は新商品の開発だ!」 はーはっは、じゃねぇよ。 何高笑いしちゃってんの卿怖い! てか作るのルシウスさんだったら試食だけじゃね? 卿の立場どうなってんの、社長じゃないのか…! 「そうだ、看板つけるぞ」 「………ちなみに店の名前は?」 「アジアのほうの言葉で気に入ったやつ見つけたからそれにする」 「ルシウス先輩知ってます?」 「いや、私も初めて聞く」 店内の床に置かれている白く塗装された木。 卿の杖の先から飛び出した黒いインクが私の見慣れた字を描く。 「………うっそん」 「我が君、これはどう読むので?」 「"稀依希"、つまり"けえき"だ!」 「かんじ…だと…!?」 そして当て字だと!? ケーキっていいたいんだろうけど誰も読める人いねぇよ! しかもやたら達筆だし! ただのヤクザがつけた名前にしか見えないんだけど、私は間違っていないはず! 「いい名前ですね」 ルシウスさん、マジか。 [*prev] [next#] [back] |