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* * *



白い狐の面を被った男は菘を抱き抱えながらある部屋に忍び込む。


「ーーー和葉様」


室内に座していた和葉に声を掛けると菘を和葉に引き渡す。


そして、次の瞬間、和葉の左頬に勢い良く平手をかました。


打たれた和葉は左頬をさすると目の前の男を睨み付ける。


「何の真似だ」


「それはこっちの台詞だよ。女の子をこんな危険に巻き込んで……この娘、相当打たれてるよ」


「…………」


「依頼主と娘の方は?」


「今、蒼詠を向かわせている。捕らえた男は役人に引き渡した」


「ふぅーん」


「何だ?」


「何で潜入なんてさせたの?必要だった?初めから目星は付いてたじゃん、この店だって」


そう、潜入なんて必要なかったはずだ。


彼には和葉が行動が理解できなかった。


しばらくするとようやく和葉はぽつりと言った。


「ーーーその方が手っ取り早いと思ったんだ」


何が手っ取り早いんだよ、と思わず心のなかで呟いた。


ますます訳が分からない。


「うちに引き込むつもり?」


「仲間になってくれれば良いとは思うがな……手放すには惜しい逸材だ」


ーーー逸材。


今まで彼にそう言わしめた仲間はいただろうか。


その言葉を聞いて相当気に入っているのだと分かった。


彼が女を連れてくるのは珍しい。


それに随分気に入っているときた。


恐らく蒼詠辺りはこのまま結ばれてくれまいかと思っているのだろう。


それ故の姫という愛称な気もする。


主の大切な人という意味の。


しかし、今聞いた限りではどうやらそうではないようだ。


「戦わせるっての……?」


「普通の娘として暮らさせてやってくれとは言われたがそれはこいつの意思じゃない」


「そうかもしれないけどさ……」


「戦わせたいんじゃない」


狐面の男はじっと和葉を見つめる。


「守るために捨てさせたくないんだ」






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