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狐の面を付けたその人物は白い着物に黒い羽織を着ており、腰に刀は見当たらない。
男が問うのも構わず狐面を付けた人物は男に迫ると鳩尾に拳を食らわせた。
次いで狐面はこちらをくるりと向いた。
と、思った時には既に遅かった。
首の後ろ辺りに痛みを感じたと同時に菘の意識は遠退いてしまった。
そのままがくりと倒れ込む菘を狐面が受け止める。
顔を除き込み菘が意識を失っているのを確認すると、狐面を付けた人物はそっと面をずらした。
「……女の子になんて事させるんだよ」
* * *
木々の間から時折月明かりが射し込む山を抜けて行く。
本来なら夜の山は危険だが、一人は妖の血を引いており、もう一人は仕事柄、夜目には慣れていた。
それよりも、早くこの山を抜けたいという気持ちの方が大きかった。
日が落ち始めた頃だったように思う。
気がつけば何者かに跡を付けられていた。
彼ーーー白蛇は目の前を歩く男の背を見る。
ふたりは頭に手拭いを巻き、背にはずしを背負っている。
これが二人の売り歩く時の格好である。
「ーーーおやっさん」
不意に足を止めて白蛇が目の前を歩く男を呼び止める。
それが合図だった。
おやっさんと呼ばれた方、柳はちらりと白蛇と目を合わせると周りを警戒しながら白蛇と背を合わせるように後ずさる。
「ーーー頼みましたよ?」
「そんなに不安なら隠居してください」
ニヤリと笑ってそう言うと白蛇は頭上に勢い良く飛んだ。
柳はちらりと上を見る。
丁度、ぽっかりと穴が開いたように木が生えていた。
恐らくこれを狙ったのだろう。
後は自分が下にいる敵を片付ければいい。
柳は両手を構えて目を閉じる。
と、同時にそれを見計らったかのように真っ暗な木々の間から何かが飛んでくる。
目を閉じた柳は微動だにしない。
飛来物があと少しで柳に届くという所で彼は姿を消した。
はらり、と一枚の葉が舞う。
敵も呆気にとられたのだろう。
不自然に舞う葉を眺めていた。
あと少しで地面に着くという時に不意に上空から悲鳴のようなものが聞こえた。
茂みに隠れていたもの達が慌て始める。
それ以前に、あの男はどこにいったのかと。
一人が一歩前に歩み出た時だった。
『え……?』
ぐらりと視界が反転した。
『う、うわぁぁっ!』
悲鳴は自分の者ではない。
彼は既に事切れていた。
なんの前触れもなく真っ二つになった仲間を見て一斉に逃げ出す。
しかしそのほとんどがその場に倒れていく。
『こ、これは……!』
きらりと月明かりにきらめくものがあった。
生き残ったうちの一人がそれに気付いて声を上げる。
『糸だ!気を付けろ……!』
手を横に振り払い周りの者に知らせる。
ひらり。
不意にぽっかりと開けた中央に再び柳がいた。
柳の姿を見ると彼は張り巡らされた糸をくぐって彼に襲いかかる。
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