17




店の一番奥まで連れて来られると菘はその部屋に放り込まれた。


牢ではないがそこは窓のない部屋だった。


重い扉が閉じられる。


外には見張りが二人、中にも二人残った。


「…………うっ」


直ぐ側から呻き声のようなものを聞いて菘は辺りを見渡した。


すると彼女の足元、右側に見覚えのある男性が横たわっていた。


それは、あやかし屋に依頼に来て、一瞬でも菘を娘の身代わりにしようとした男だった。


「あんた……」


菘に気が付くと男は愕然とした表情を向けてきた。


「娘さんは…ご一緒ではないのですか?」


菘は足元に転がる男に小さな声で訪ねる。


「分からねぇ、でもここにいるのは確かなんだ…見たんだよ、ここにいるのを」


当てが外れた訳ではなかったようだ。


どうやら娘はこの店にいる。


少なくとも、菘はわざと捕まった。


いてくれなければ困る。


そう思っていると不意に、菘は髪を捕まれた。


「おい、何をしている?」


「……っ!」


髪を掴まれて無理やり上を向かされたため菘は痛みに顔を歪める。


「お前、うちの店を嗅ぎ回ってたんだってな?」


「……この方の娘さんはどこ?」


薄目を開けて菘は問う。


「さあな」


男は嘲るような笑みを浮かべた。


このままここにいても仕方ない。


菘は床に倒れている依頼主をちらりと確認すると、自らを掴む男を蹴り飛ばした。


突然のことに側にいたもう一人の仲間は呆然としていた。


蹴られた衝撃で男の持っていた木の棒が床に転がる。


それを咄嗟に掴むと菘は自分の方へ手繰り寄せた。


男から奪った棒を菘は構える。


しかし、室内が狭く振り回すには向いていない。


菘の頬を冷や汗が伝う。


依頼主を守りながら戦うのは不利だ。


菘が握る手に力を込めると、先程菘が蹴り飛ばした方とは違うもう一人の男が棒を構えて襲いかかってきた。


菘は咄嗟に手にしていた棒を構えて攻撃を防ぐ。


しかし、男の力に耐えきれずすぐに片膝を付いてしまう。


菘を力任せに押すと男は一旦離れて突いてきた。


棒の先端には布が巻かれて中に何かが詰められているとは言え諸に食らって菘は咳き込む。


「はぁ……はぁ……」


痛む腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる。


「……っ!?」


すると、不意にがくりと体が前に倒れた。


一瞬訳が分からなかったが足に違和感を感じて見れば先程菘が蹴り飛ばした男が菘の足を掴んでいた。



「逃がさねぇぜ……」


「よし、そのまま押さえてい…ろ?」


不意に、目の前の男がぐらりと倒れた。


「えっ……」


「な、何者だてめぇっ!」


菘が呆然としていると不意に、足を掴んでいた男が声を荒げた。


菘がゆっくり顔を上げると、そこには黒い衣を羽織った狐面を被った者がいた。





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