07



「そ、それは・・・」


にこにこと笑いながら畳み掛ける柳に菘はしどろもどろになる。


「ーーー何をしている?」


不意に、静かな、けれど厳かに放たれた言葉にその場にいた者が凍りつく。


驚き、菘が背後を振り替えるとそこには和葉が立っていた。


何故か気絶した男性を左脇に抱えながらではあるが。


「あ、あの・・・そちらの男性は?」


「ああ、今回の依頼主だ」


そう言うと和葉は気絶している依頼主を床板の上にそっと横たえた。


「朔、すまないが、こいつを隣の土間に寝かせておいてくれないか?」


「分かりました」


朔は気を失っている依頼主を肩に担ぐとすぐ隣にある土間へと入っていった。


「それで、お前達は?」


和葉は柳と白蛇に視線を向けた。


「それが・・・急遽少し遠くまで届けに行くことになりまして・・・」


「今からか?」


流石に急すぎる仕事に和葉は眉を寄せる。


「それでですね、人手がいりそうな時に申し訳ないのですが・・・私もおやっさんに着いて行こうかと・・・」


白蛇の提案に和葉は腕を組んで思案顔をする。


「確かに今は戦力が欲しいところだが・・・一人行かせるのもな」


そう言って和葉はちらりと菘の方を見る。


「え・・・?」


目が合うと和葉は口許にうっすらと笑みを浮かべた・・・ような気がする。


菘は嫌な予感がして少し身を引く。


「こちらは大丈夫だ。幸い、頼もしい見方もいるし、それに・・・まずは調査することになるから本格的に動くのは蒼詠が戻ってからになるだろう。その頃にはお前たちも間に合うだろう?」


柳が「ええ」と頷く。


「すまないが、朔は俺と調査に加わってくれ」


そう言って和葉が土間への戸へ視線を向けると、依頼主を寝かせに行っていた朔がそこに立っていた。


「うん、わかった」


「菘は・・・すまないが客人の世話を頼む」


「え・・・」


思いがけない和葉からの指示に菘は目に見えて固まる。


「あの・・・私・・・」


「だ、大丈夫。俺もなるべく顔を出すから・・・」


朔にまで気を使われてしまった。


見た目は自分よりも明らかに年下に見えるせいか少し恥ずかしい。


「わ、わかりました。頑張ります・・・」


「よろしく頼む」


「和葉様も人が悪いですね」


少し同情する様に柳はそう呟いた。


柳の言葉に和葉は何も返さず白蛇に向き直る。


「分かってるとは思うが、いざとなったら・・・」



「はい、全力で逃げます」


「なら良い」


「では、和葉様。我々はこれで・・・」


「ああ。気を付けろ」


「ええ。鈴姫様も」


「あ、はい。お気をつけて」


「では」と柳は一礼すると白蛇と共にあやかし屋を出て行った。


二人が出て行くのを見送ってから、和葉は腰掛けた。


「怒っているか?」


そう言って和葉は菘を見上げる。


その顔は少し困ったような相手の様子を伺っている様に菘には見えた。


「いいえ」


「そうか・・・」


なんだか和葉がほっとした様に見えて、この人でもこんな顔をするのかと菘は思った。


雰囲気や見た目から完璧なイメージだったがそうではないのかもしれない。


「あの・・・私は具体的に何をすれば?」


「ああ。見張ってほしい。目星は付いてるんだが、確かめに行っている間にうろうろされても困る。あまり騒げば依頼主とて危ないからな」





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