06

 




* * *







梟が鳴いている。


夜半過ぎ、和葉はここ、あやかし屋を探しているという人物を迎えに行くために出ていった。


それから一刻余り、菘はあやかし屋の一階にある入り口に腰かけていた。


和葉が店と呼んだそこは、玄関というより、薬問屋の様な造りをしていた。


壁には一面棚があり、薬草の様な臭いも微かにする。


今か今かと待ち構えていると、不意に、からんと下駄の音がした。


「わよっ」


「おや?」


和葉様、と駆け出そうとした菘は予想外の人物に動きを止めた。


「おやおやおや!まさか貴女が!これはお美しいお嬢さんだ」


笑顔で肩を掴んできたこの男性は、頭に手拭いを被り、全身紺の衣装に身を包み、背中には多きなずしを背負ったなんとも謎めいた装いだ。


「おやっさん、鈴姫様怖がってるから」


声がしたと同時にひょいと白蛇が塀を飛び越えてきた。


「おやっさん・・・?」


「ええ、申し遅れました。わたくし、この隠れ里で呉服屋を営んでおります、柳(やなぎ)と申します。こちらの白蛇の育ての親でございます」


「よろしくお願いします・・・」


「おやっさん、そこまで言わなくて良いですから。鈴姫様、和葉様はまだお戻りではありませんか?」


「はい、まだ・・・」


「そうですか、困りましたね。実は急遽少し遠くの町まで衣を売りに行くことになりまして・・・私も着いていく旨を和葉様に相談したかったのですが・・・」


そう言って白蛇は少し困ったように笑う。


よく見れば、彼も背にずしの様なものをしょっている。


どうやら彼らは呉服店の営業だけでなく、出張販売や配達も行っているようだ。


和葉様が戻るにはまだかかりそうだと思い、菘は二人を座らせた。


「これ、気になりませんか?」


腰を下ろすなり壁を多い尽くすような引き出しを柳は指差した。


「・・・ええ、まあ。何やら薬草の様な匂いもしますし」


菘がそういうと彼はくすりと笑った。


「その通り。これは全部薬草です。薬棚なんですよ、これは」


「ここは、お医者様なのですか?」


「いいえ。でも、ここは小さな隠れ里で、医術の知識のある者なんて蒼詠様しかいなくて・・・」


「薬草の調合と販売。あと、出産に立ち会ったりとかね」


不意に聞こえた新たな人物の声に柳は目を丸くする。


「しゅ、出産!?」


菘は話の内容に驚いて思わず声を上げた。


てっきり産婆が来るものとばかり思っていた。


「おや、朔。いたのですか」


背後を振り返り柳はにこりと笑う。


「今帰ってきたんだよ。なにしてるのさ、みんなで」


「和葉様を待っているんですよ」


「ふーん」


「で、話を戻しますが。ここにはできるのが蒼詠様しかいないのですよ。ああ、でも鈴姫様がいてくださるなら、蒼詠様のお手伝いに呼ばれるかもしれませんね。あ、これいいですね。女性の方もその方が安心でしょうし」


「ちょっ、ちょっと待ってください・・・!私はそもそも人と関わるのが苦手で・・・」


「でもほら、今私たちと普通に話せたじゃないですか」





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