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それを見て、白蛇も口角が上がるのを抑えられない。
「心に留めておきましょう」
そしていつもの商人の顔に戻る。
ふっと笑ったのが聞こえて思わず目を見開くと和葉が口を開いた。
「その胡散臭い笑みは止めろ」
「商売ですので」
にっこりと白蛇は微笑む。
ちょうどそこに、奥の方からかけてくる小さな衣擦れと足音が聞こえた。
「終わったようですね」
「お、お待たせしました・・・!!」
心底申し訳ないという様な顔をした菘を見て白蛇はお得意の笑みを顔に浮べる。
「まったくです。あんまり遅いから茶菓子を出せと和葉様に迫られてどうしようかと思っていた所です」
むすっとして言った後で白蛇は「へへっ」と悪戯が成功した後の子供の様な笑いをした。
それを見てぎこちなくではあるが菘も笑った。
「では」と言って去りかけた菘達を再び白蛇が呼び止めた。
胡乱気な顔で和葉が白蛇の方を見るも、彼は満面の笑みを浮べていた。
もう、それはこれ以上無いくらいに。
「それでですね、和葉様。お・だ・い、の方なんですが」
妙に「お代」の所だけ強調した彼を和葉が睨み付けると、その目の前に算盤が出された。
「ざっとおおまけにまけてこんなもんですかね?」
「こ、こんなに・・・」
その金額を見て驚く菘に白蛇は肩をすくめてみせる。
「あれだけの量を買えばね、これくらいしますよ。これでもまけてる方です」
「ど・・・どうして・・・」
「―――白蛇」
「はいはい」
普段よりも和葉の発した声は低かったが意にもかいさず白蛇は笑みをさらに濃くした。
「代金はいつものように」
「毎度あり」
満面の笑みを浮べて「ありがとうございましたー」と白蛇は算盤を振る。
それを呆然と見ながらも菘は手を引かれる様にして店を後にした。
青い羽織の上で右に左にと揺れる長い銀髪を眺めながらぽつりと呟いた。
「あ、あのっ・・・こんなに払えません。それに・・・私は・・・」
祓い屋の、と言おうとした言葉をさえぎる様にしてぐいっと手を引かれた。
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