05











何とか台所に辿り着いたのは良い。


だがしかし。


これはどう調理すれば良いのだろう。


大根をまな板の上に乗せながら菘は頭を捻っていた。


だが、いくら考えても分からないものは分からない。


「―――できないのなら無理はするな。怪我をするぞ」


突如、背後から聞こえた声に菘は驚き肩を震わせた。


「わ、和葉様・・・」


「貸せ。俺がやろう」


「あ、はい・・・」


言われるがまま菘は包丁を和葉に手渡した。


「料理に興味はあるか?」


「え?」


「ここでは、交代制なんだ。炊事、掃除、その他いろいろな」


言いながら和葉は食材を切っていく。


その慣れた手付きに菘は感心した。


「ここには、和葉様の他にも?」


「三人いる。もう一人いるんだがそいつはここに住んでいる訳ではないから実質住んでいるのは三人だ。あやかし屋は俺以外に四人いるがな。まあ、追々自らが自己紹介するだろう」


記憶を手繰っても、菘には料理の経験がない。


恐らく、掃除を初めとしたここで皆が交代でやっているものをした事がないだろう。


ぎゅっと衣の上から短刀に手を添える。


自分には、一体何ができるだろう。


「・・・経験はありませんが、興味はあります」


できるかは分からないが、やってみたいという気持ちはある。


「・・・分かった。夕げの仕度の時に米の炊き方から教えよう」


菘の瞳に光が灯る。


「ありがとうございます」


そう言って彼女はぎこちなく笑みを浮かべてお辞儀をした。


不意に、伸ばされた手に驚いて顔を上げる。


「ちゃんと笑えたんだな」


ここに来て、初めて見た。


目の前の青年は穏やかに目を細めていた。


だが、それでも少しだけ寂しそうに見えた。


それが的中したかの様に和葉は菘の頬からぱっと手を離した。


「―――怖いか?」




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