03






熱に浮かされながら時折襲う痛みに龍作は耐えていた。


青風に刺された傷は以前塞がらず今も熱を持っている。


そんな龍作を見下ろす一つの影があった。


月を背後にしているため、顔は良く見えないが、長い髪が風に揺れる。


「・・・っ・・・」


「―――式のことが心配か?」


それまでうなされていた龍作が、はっと目を見開いた。


「お前は・・・」


「菅貫霜惺が式―――永鬼だ」


自らの師の名を聞いて龍作は困惑した。


月明かりが永鬼を照らすと、うっすらとその姿が映し出される。


長い髪は赤く、額には二本の角。


それは彼がただの妖ではなく、人々から恐れられる存在、鬼である事を物語っていた。


ごくり、と龍作は唾を飲み込んだ。


見れば分かる。


この鬼から放たれる妖気が凄まじい事が。


傷の痛みも忘れ、呆然とその姿に魅入って入ると、痺れを切らして永鬼が口を開いた。


「戦う事を望むか?その身体で」


「・・・っ、何が言いたい」


「お前が望むなら、俺はお前を我が主の元まで案内しよう」


もちろん手は貸すと言われ、龍作はますます困惑した。


それを読み取ったのか永鬼は口許に仄かに笑みを浮かべた。


「案ずるな。貴様の事は我が主から頼まれただけだ。もし、奴にその気があるのならとな」


「師匠・・・」


「あいつは鬼ではない。弟子を思う心は誰よりも温かい」


鬼ではない。


そう言った彼が一瞬寂しそうな目をした様に龍作には見えた。


だがあえて触れないでおこうと決め、他に気になっていた事を聞く事にした。


「なあ、師匠があんなに俺が青風を式にする事に反対してたのにはあんたが関係あるのか?」


師は今まで自らの式に会わせようとはしなかった。


それが何故。


そしてもう一つ。


青風を式にする事に反対し、式にした後は青風への態度は冷たかった。


「―――さあな」


それより、行くのか、行かないのかと目で問うて来る。


ぐっと刀を握りしめて、それを支えに起き上がると強い瞳で龍作は永鬼を見上げた。


「俺を、案内してくれ」






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