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* * *
「―――・・・舞」
名を呼ばれて、ゆっくりと振り返る。
「お母様・・・」
「龍作殿はもう大丈夫だそうよ。ただ、傷が塞がるまでに時間がかかるようだけれど・・・」
「そう・・・」
「あなたも少し休みなさい」
そっと腰を下ろすと舞の顔色を伺った。
「私は大丈夫よ。ちょっと龍作の様子を見てくるわ」
心配してくれているのは分かっていたが、今は何も聞かれたくなかった。
それよりも、龍作の事も心配だったのだけれども。
* * *
体の節々に痛みを感じて舞は目を覚ました。
規則正しい息をして眠る龍作を見てそっと肩を撫で下ろす。
肩にかかっている袿を見るに、どうやら自分は昨夜、龍作の様子を見に来てそのまま眠ってしまったらしい。
不意に、慌ただしい足音と、女房達の叫び声が聞こえた。
何だろう?と思っていると、足音はどんどん近づいてきた。
とっさに身構えて懐の懐剣にてを添えたその時。
「桜木のひーめっ!!」
意気揚々とした声と共に成人男性が飛び付いて来た。
自分よりも背の高いのと、その反動で後ろに押し倒されそうになる。
「わっ、きゃっ!!」
「くくくっ、可愛い反応だね。少しは女としての恥じらいというものを身に付けたのだね。時の流れを感じるよ」
「何しに来たのよっ!!霜せいっ!!」
「予想通りの反応をありがとう。ーーー式の在りか、知りたくはないか?」
ふざけている様な口調なのに、その目は笑っていない。
有無を言わせない強さを感じてしまう。
どうしても、目が反らせない。
「・・・どういうこと?」
そう言うと、霜せいはにっこりと笑った。
胡散臭い笑みで。
「ーーー支度をしたまえよ。もちろん、旅支度を」
「えっ・・・!?ちょっと、待ってよ!!龍作はっ!?置いては行けないわ!!」
必死で抗議する舞姫を鼻で笑いながら霜せいはその腕を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「はっーーー。捨て置きたまえよ。こんな死に損ない」
「あなたっ」
「このくらいで死ぬ柔に育てた覚えはない」
それまでとはうってかわって霜せいは真剣な目をしてそう呟いた。
それはあまりにも小さすぎて舞姫でもようやく聞き取れた程度だった。
しかし、その目は確かに師のそれだった。
「言ってくれるじゃないか」
荒い呼吸と共にそんな声がした。
慌てて舞は龍作に駆け寄ろうとするが、それを霜せいに阻まれる。
「ま、舞は渡さない。・・・っ、それが・・・危険な旅ならなおさら、な・・・」
「龍作・・・」
「ーーー追って来な」
「なっーーー!!」
霜せいの予期せぬ言葉に舞姫は息を飲んだ。
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