証言
聞き取り調査による村人の証言。
神父の場合。
「彼女たちの首には噛み跡がありました。鋭い牙が深々と刺さったのでしょう……痛々しい様です。
三人とも信仰深く、教会での話も熱心に耳を傾けていました。そんな清らかさに吸血鬼は惹かれたのかもしれません。私にもっと力があれば……この村には申し訳なく思っています」
村長の場合。
「村長だからといっても、村の全てを常に把握してるわけじゃないんです……そんな考えが悪かったんですかね……この村で吸血鬼だなんて……!
若い娘ですからね……そろそろ結婚なんかも考えたり、そのときは私も式のことなんかで関わるんで噂話なんかはよく聞いたりしてましたよ……でも、あの娘たちは村のなかよりも外のことに興味があるみたいで……若さですね……葬儀には出ましたが、あんまり関わっていません。日誌や、教会への届けのために話を聞きに行ったりしましたが、それは記載してあるので全部です」
酒場の女将の場合。
「あの娘たちは良い子って評判だったわ。まあ、でも……確かに良い子ではあったけど、親への隠し事は間違いないわね。いつからだったかは覚えてないけど、三人ともいつの間にか女の顔をするようになっていたもの。あたしが若い頃、誰それと逢引したなんて話によく食いついてたわ」
仕立て屋の息子の場合。
「オードリーのことが好きだったよ。だから、余計に今回のことが残念だ……皆、あれほど彼女を……彼女たちを悼んでいたのに、吸血鬼の存在が浮上したら途端に手のひらを返して……あんまりだと思わないか。田舎の村のそういうところが嫌なんだ……俺がもっと早くオードリーを連れ出せていたら……!」
三人共通の友人の場合。
「神父様……神父様なのですよね。それなら、私が話すことも内緒にしてくださいますか……? ああ、よかった……! 実は、あの三人は恋をしていたのです……内緒よ、とそれぞれ私に打ち明けてくれていました。相手は……訊いていません。秘密なの、と得意げに隠されて……ええ、とてもご両親にはいえませんけれど……三人とも、乙女ではなかったと思います……恋をしたのが吸血鬼なら、隠すのも当然ですよね……」
ブリジットの母親の場合。
「あの子はなにも悪くなどありません。そうです、そうに決まっています。ただの不幸な事故だった! 皆、そう悼んでくれたじゃないですか。なのに、どうしてあの子が……!
あの子の様子、ですか……? 娘盛りなのです、多少はお洒落にも興味を持っていましたけど、決して吸血鬼に誑かされたりなどしていません!!」
オードリーの兄の場合。
「うちからあんな阿婆擦れが出るなんて……魔物なんぞに心を奪われるなんて馬鹿な妹だ……! おかげで俺たちがどれだけ肩身の狭い思いをしていることか。
いま思えば、熱心に教会へ通ったり村長や仕立て屋んとこのやつに村の外のこと訊いてたのも、全部良い子の振りだったんだろうな。なあ、神父様。魔物に靡いたのは妹であって、俺や親父たちは関係ないんだよ。俺たちは神様に見放されたりなんてしないだろう? なあ……」
ジェマの父親の場合。
「ジェマは……三人目で、いなくなったときにはもう嫌な予感が村中でしてた……だもんで、見つかったときはやっぱりってなあ……でも、まさか吸血鬼の仕業だなんて思わなかっただよ……ジェマの花嫁姿見たかったけどんも、おらはバケモンの嫁にやる気なんてなかった……!
神父様……こんなこと思っちゃいけねえのは分かってるだよ……でも、でも……ブリジットとオードリーで吸血鬼は味をしめたんかねえ……っ」
葬儀屋の場合。
「こんな村外れまで神父様も大変だあ。ん、ん、そうだよ、俺が三人共きれーにして棺に入れたんだあ。
そだな、三人とも首に傷があっただよ。一人目んときにも気づいてたさ。
吸血鬼? 俺んには関係ねえもん。俺んがいらんことで話しかけっと嫌がられるもんで、態々教えることでもね。
ん、ん、ん? そだな……」
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