始まりの話
可笑しい。
可笑しいぞ。
あっちの世界からやってきて、現在保護してもらっているこの豊臣軍。
あぁ、くそ。
気づいたときには手遅れだった。
朝、目が覚めてたら何故か布団の横に三成さんが正座しており、暗い瞳で私のことを見下ろしている。
僕はそれに笑って挨拶して、何事もないように起き上がって布団を畳む。
三成さんに手伝われて着物を着替えた後、三成さんに手を引かれて朝食を頂くために広間へ行く。
そこには貴弘達の姿は無くて、代わりのように半兵衛様と吉継さん、そして秀吉様がいる。にこにこと笑って、僕は嬉しそうに挨拶をしてみせる。
その後に、決まって一言言うのだ。
「皆さんと一緒にご飯を食べられて嬉しいです!」
そう言えば、彼らの表情は嬉しそうに綻ぶから。
彼等と会話するのに貴弘達の話題は禁物だ。
初めて貴弘達とご飯を食べられ無くなった時に聞いてしまったことがある。
何故貴弘達が食卓に居ないのかと。
彼等はにこりと笑って、なにも言わなかった。
そして、その夜に傷だらけの彼等を見ることになる。
貴弘、トシ、健太の三人の中でも、僕が名前を出してしまった貴弘の傷は更にひどかった。
「何これ…?!どうしたの?!」
「…三成さんと、半兵衛様が…」
「真が俺達を気にかけるって…」
はっとした。あの時だ。あの時の質問のせいだ。僕はこいつらを守るためにこの豊臣軍に属しているというのに、僕の一言でこいつらを傷つけてしまった。
身体が震えて、涙が出る。
「ごめん…」
謝って、僕は一つの提案をする。
「あの神様に、君達を返してくれるようにお願いしてみる」
僕らをここに連れてきたのは神様だ。
だから、神様に頼んでみれば、きっと。
きっと。
縋る思いで僕は走って、神社に駆け込んだ。
帰れるように、命の危険に晒されないように。
半兵衛様達に見つかったら、この命は無くなるかもしれない。
けれど。
一晩中祈って、その結果。
貴弘達は、帰ることが出来た。
交換条件として提示されたのは、もう二度と、僕の意志であの世界に帰ることが出来ないということで、僕はそれに迷うことなく頷いた。
神様は非常に悲しい目をしていて、同情されていることに気がついた。
それに気がついて、僕は非常に泣きたくなったけれど、それでも貴弘達を帰した。
泣きながら嫌だとぐずる彼等に対して僕も嫌だと泣いた。
僕も帰りたい。
帰って君達と遊びたい。
家族に会いたい。
なにより、死にたくない。
こんな戦国の世ではいつ死ぬかわからない。そのために豊臣軍に属したというのに、結果はあの瞳。
嫌だ嫌だと泣きわめいた。四人で泣き喚いて、そのまま、一生の別れ。
ばいばい元気でね。
そう言って泣いた。
目が覚めたら半兵衛様と三成さん、吉継さん、秀吉様が周りと囲うように座っていた。
話を聞けば神社で眠っていたという。
「君が無事でよかったよ」
そういう半兵衛様の瞳が濁っているのが分かった。
全員がその瞳をしているのを見て、そこで初めて気がついた。
皆、狂ってしまったんだ。
僕のせいで。
…僕のせいで!
ごめんなさいと言えば大丈夫と返される。
謝っても意味は無いと分かっているけれど。
「ごめんなさい」
ただ、泣いて謝った。
元に戻ってと、解放して、をあわせて。
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