一部 潤滑剤
兄様とにいさまの仲が最近良好である。最近といっても、もうかれこれ2年くらいたってからなんだけど。
にいさまが兄様に対して歩み寄りを見せたと言うべきか。ともあれ、兄様たちは穏やかな日常を過ごし始めていることは確かである。
…まぁ、なんでなのかわかっているから、ぶっちゃけなんとも言えないんだけど。
「兄様、にいさまが呼んでるよ」
「ディオが?わかった。今行くね」
私はかわらず兄様のお下がりを身につけております。
今日も兄様のコーディネートの服装ですよ。
にいさまが部屋にいる兄様を呼ぶように言ったから、頷いてそのまま兄様の部屋に入る。
兄様は椅子に座って何かの本を読んでいた。その本から顔を上げてこちらを見て、不思議そうな顔をして本を閉じて机の上に置き、立ち上がった。
私の頭に手を置いて、自室にいるように言うと、そのままにいさまのいる方へと歩いていった。
私がいると困るのだろうか。
少しだけ寂しい気持ちを抱えながら言われた通りに自分の部屋へと歩いていった。
おとなしく兄様のくれた小説を読み始めて、兄様たちのどちらかが呼びにきてくれるのを待つ。
話が終わったら呼んでくれるでしょう。
小さなノックの音に気がついて小説から顔を上げる。
いま読んでたのは王道ファンタジーの冒険恋愛ものだ。英語も日本語に変換してくれるのはとても助かってる。暇を潰すのに苦労しないで済むから。
英語も話せない読めないだったら積みすぎだよね。生きていける気がしないよ。
「どうぞ」
「入るぞ」
にいさまが扉を開けて入ってくる。
彼は入ってくるなり青い綺麗な瞳からハラハラと涙を零してそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべた。
そして、うっとりとした色気の有り余る表情で私を見つめてから、口を開いた。
「これから、俺もお前を、真を共有できるようになった。あぁ、もうジョジョに気を使わずともお前と一緒にいられるんだ。これほど嬉しいことはこのディオの人生にないだろう」
にいさまがゆっくりと歩いてきてベッドの上に座る私を抱きしめる。
…うん。
にいさま、兄様に気を使ってあまり私に接触してこなかったのね。そっか、そっか。
兄様の所有物だったのね、許可必要だったのか。
というか、私を共有したいから兄様と仲良くしてたの?
え、原作の思惑じゃないの?え?
「真、真、真、真、真」
「はい、真はここにいるよ、にいさま」
にいさまが顔を埋めている肩口がじんわりと湿り始めたので、小説を一旦ベッドの上に置いて、慰めるように背中に手を伸ばしてぽんぽんと優しく叩く。
「ああ、嬉しい。俺は嬉しい」
「…そっか」
ごめんなさい。
あなたたちの感情を弄ぶような呪いを持っている私を許してください。
本当のディオは、本当のジョナサンは、こんな女1人にこんな黒い感情を向けるハズなんて無かったのに。私のせいで。ごめんなさい。
にいさまがようやく泣き止んだ頃合いに兄様が私の部屋のドアを開けた。
「ディオ、真」
「兄様」
「ジョジョ」
にこりといつもの口元だけの笑顔を浮かべた兄様がにいさまと私を抱きしめる。
「これで三兄弟だ。絶対に、裏切ることは許さないよ」
「そうだな、そうだ」
にいさまたちが仲良くなったことは嬉しい。
ギスギスした雰囲気が解消されるということだし、ありがたい。
原作のようになる確率が減ったということなのだから。
…願わくば、今のままで自室をキープしておきたいです。
やっぱりプライベートな時間って大切だと思うんですよ、私は。
命かかってるから口になんか出しませんけどね!!
「ジョナサン兄様、苦しい」
「ん?ああ、ごめんね!とりあえず、今日は三人で寝ることから始めようか!僕はまだディオと一緒に寝たことがないからね!」
兄様に呼吸が窮屈であることを伝えると兄様は謝罪後、にいさまに向かってそう提案をしていた。
にいさまはにこりと微笑んでその提案に頷く。
爽やかな美少年と妖しい美しさの美少年。間に挟まれている私のなんと幸運なことでしょう!変わって欲しけりゃ変わってあげますけどね!!
ああ、にいさま。そんなに嬉しそうな顔をしないでください。
私は、私はいまだにあなた達から逃げられるなら逃げたいと考えているのですから。
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