ろく
あれからはや数日。
双子の仕事中に喋らない声を出さない動かないを徹底して守っている私に、双子からご褒美があるということで、非常にわくわくしている。
最初は仲良くしてくれようとしてくれた職員さんたちは私に寄ろうとした瞬間に威嚇する猫みたいになる双子達の瞳に苦笑して今では遠目に見るだけだ。
バトル中もどちらかについてトレインに乗ったらシートに人形よろしく座ってバトルを見ていればいいし。
二人ともここ数日は負け無しですよ。鬼神の如き強さである。
椅子に座ったままそのご褒美を待っている私のために彼等も若干駆け足で戻ってきた。
「ごめんね!おまたせ!」
「これがご褒美でございます!」
差し出されたのは紙袋。
受け取って早速袋を開く。
中に入っていたのは双子の身に付けているあのサブウェイマスターの証である制服の私のサイズであった。
白黒が上手く配色されていて、とても格好いい。でも靴はない。
「これ、貰っていいの?」
「そのためにつくったのです!」
「だから着てほしい!」
しかもノボリさんの手作りらしい。
なにそれ超レアじゃん。プレミアじゃないか。
「あの、えっと、凄く嬉しい、ありがとう」
柄にもなく照れてしまい、俯き加減になったもののしっかりお礼を口にする。
嬉しい気持ちは伝えておかなきゃね。
「明日から真もそれを着て一緒にトレインに乗る!嬉しい?楽しみ?」
クダリさんが私の顔をのぞき込むようにしゃがんで見てくる。その隣ではノボリさんも同じ姿勢をしている。
なんだこの双子。ぐうかわ。
「勿論、とても嬉しいよ!明日からこれを着て二人のお仕事見るの、とても楽しみ」
明日はノボリさんだったっけ。
「ホント?!嬉しい、僕らも楽しみ!」
「私、頑張ったかいがありました!」
にこにこと笑顔に溢れる二人に、流石双子そっくりだなぁ、と検討違いな事を考えていたら、ノボリさんに抱え上げられた。
「さ、お風呂に入りましょうね」
「今日はノボリお風呂担当、僕ご飯担当!」
「はぁい…」
いってらっしゃい、と依然笑顔のクダリさんに見送られながら浴室へと向かう。
この浴槽がデカいんだよね。前の世界では私の希望を優先してくれたからアメリカでも立派な浴槽が設置されたんだけど、ここはもとから大きな浴槽があった。二人が時間短縮で同時に入っていたらしい。確かに二人ともデカいもんね。
今は交代だけど、初日は三人で入ってもでかかったし。
「さ、万歳してくださいな」
「ばんざーい」
異性に身体を見られるのなんて一番目の世界で馴れた。というか、慣れざるを得ない。
こぞってみんな世話を焼きたがるし、断ってなにされるかわかんないし怖いし。
また抱き上げられて浴室内へ。因みに、この時点ではまだノボリさんもクダリさんも服を着てる。
個人的に、ノボリさんは世話をしていくことで駄目人間にして依存させていくタイプだと思う。
頭を洗われて身体を洗われて、泡を綺麗に流したら浴槽へどん。
ここで漸くノボリさん達は服を脱ぐ。
同様に頭を洗って、身体を洗って、浴槽に入って、共に100を数えて出る。
ほかほかと湯気をたてながらキッチンへ共に行くと、クダリさんが椅子をひいてくれた。
ノボリさんがそこに私を座らせて、クダリさんを手伝って夕飯を机の上に出す。
今日はホットサンドらしい。美味しそう。
温かい紅茶も共に出されて、あとは食べるだけ。
「簡単なものしか出来なかったけど、召し上がれ!」
「いただきます!」
「いただきます」
「おいしいよクダリさん!」
「ほんと?ありがとう」
「ええ、とっても」
にこにこ笑ってる双子に気付かれないように、私は口に入っているホットサンドを紅茶で流し込んだ。
クダリさんは自宅では手袋をつけない。私に手袋を通して触れたくないから。でも、今は手袋をつけてホットサンドを食べている。
…このホットサンド、微かに血の味がする。
ケチャップにでも混ぜたのだろうか。
血の味は嘔吐を誘発するのだ。だけど、ここで吐き出してみなよ。
どんな目に合うか解らないよ?
口の中に残る微かな血の味を洗い流すように紅茶を口にする。
なんとか完食して、私は御馳走様、と笑って見せた。
途端にクダリさんは満ち足りた笑顔を零して、私の頭をよしよし、と手袋を外した左手で撫でた。
クダリさんは左利きだから、多分右手を傷つけたのだろう。
「よく完食できました。イイコ」
「クダリさんのご飯もノボリさんのご飯も美味しいからね!」
上手く笑えているかは自信がない。正直胃が嘔吐反射を示している。どんだけ血を入れたの。貧血にならないのか大丈夫かあんた。
それからの時間は基本ポケモン達と交流をして過ごす。
ノボリさんとクダリさんはバトルで使うポケモン達のケアをしてあげたり、私はポケモン達に癒されたり。この時間はとても有意義なものだ!
「では、明日に備えてもう寝ますよ」
時刻は9時。
ケアをバッチリ終えたノボリさんが立ち上がって私を抱きかかえる。
「わかった。おやすみ、ヒトモシ、バチュル」
名残惜しそうにこちらを見る二匹の頭をノボリさんが撫でてやって、私達は寝室へ移動する。
別々だったらしいベッドは今はキングサイズのベッドになっていて、ここで三人川の字になって寝る。
通販で頼んだらしい。
「さ、クダリ、真をそちらへ」
「オッケィ!」
クダリさんに手渡しされて私はクダリさんと共にベッドにダイブする。
ふかふかの布団。これは私のためにと揃えられたもの。
ふと、金髪が頭をよぎって消えた。
今、どうしているんだろうか。
「さ、真、目を閉じて!」
「あ、うん。おやすみなさい」
ぱちり。
電気が消えて、私は目蓋を閉じた。
レオンさんが忘れられない真さん。
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