ご
「どうしようノボリ!」
「どうしましょうクダリ!」
目の前で白黒の双子がこの世の終末のような表情で悩んでいる。
彼らの格好はゲームやアニメ、マンガで見たとおりのあのサブウェイマスターの制服を身につけていて、今日は出勤の日なのだそうだ。
いつもなら喜び勇んで残業でもポケモンバトルなら構わないって程なのだそうだけど、今日は違う。
だって私がいるから。
彼等が私から離れないのなんて昨日お風呂からベッドまで一緒だったからとっくに理解してる。
でも彼らは同じくらいポケモンバトルが、ポケモンが好きだから絶望の表情で悩んでいるのだ。
「私お留守番できるけど?」
「それは僕たちが耐えられないからだめ!」
「それにこんな寂しいところに一人でなんておいていけません!」
私の気づかいは却下された。
ていうか寂しいところってノボリさん、あなた達が仕事仕事仕事で住むところに気を使わなかったからですよ。
タンスとベッドとポケモンのケア道具しか無い部屋なんて初めてみましたよ。
「でも、遅刻するよ?」
「どうしようノボリ!」
「どうしましょうクダリ!」
エンドレス。
困ったなぁ、私のせいで遅刻とか申し訳ないよ。
ああ、そうだ。
「じゃあさ、私を二人の持ち物として持って行けばいいんじゃないの?」
私の言葉にぴたりと止まる二人。
こちらをみる顔は輝いていて、いそいそと私が出掛けられるように支度を始めた。
昨日クダリさんが買ってきたばかりの新しい服に袖を通してボタンをとめる。
ズボンも履いて、ソックスも履いて。
靴はない。
クダリさんかノボリさんが抱えていくからいらないそうだ。
「準備できましたよ」
「オッケィ!今日は真は僕の持ち物!離れたらだめ!お仕置きだよ?」
「持ち物は持ち主が手放さない限りずっと持ち主の側にあるものですけど」
「その通りだ!」
脇の下にクダリさんの手が差し入れられて簡単に持ち上げられる。この双子ひょろそうに見えてしっかり筋肉ついてやがる。
クダリさんの腕の中で大人しく二人が今日の予定について会話しているのを聞く。
会話の所々に“トウコ““トウヤ““カミツレ“という名前が出てくるのを聞きながら、ここは本当にポケモンの世界なんだなぁと実感する。
クダリさんの肩に頭を乗せて、今日をどのように過ごそうか考える。
二人がポケモンバトルしてる間はどうすればいいのかなぁ。
クダリさんの勇姿を見ていればよいのか。
「あ、真、君、ステーション内では口聞いちゃだめね!」
「…はい」
ニコリといつも笑顔のクダリさんの瞳が完全に笑っていない。
基本口元だけの笑顔だけどね。
「うん!わかってくれる真イイコ!」
私を座らせている腕とは反対の腕をあげて私の頭を撫でる。
「さぁ、もうすぐステーションでございます」
「真、お口チャック」
ステーションとノボリさん達の家を繋ぐ廊下の先のドアを開ければ、そこは事務所だった。
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