とりあえず、ベッドサイドに腰掛けて、こちらを見下ろすふたつの同じ顔を見上げる。
二人の瞳は既に濁り始めていて、今回はきっとこの部屋の外に出してもらえることすら難しいかもしれないとぼんやりと考えた。
折角来たのだからライモンシティの遊園地とか行ってみたかったのに。

「私、真と言います。ノボリさん、クダリさん、どうぞよろしくお願いしますね」


もう、三回目なのだから、ヤンデレ達の扱いはきっと特許がとれるのではないだろうか。
差し出した両手を素早く痛いほどに握られながら遠い目をする。

「では、真、と呼ばせてくださいまし。真、お腹はすいておりませんか?」

黒い方、ノボリさんが私の手に頬を擦り寄せながらうっとりと私を見る。
お腹、うん、空いたかもしれない。


「では、今すぐに作って参ります。クダリ、ちゃんと相手をしてあげてくださいね」
「大丈夫、僕真のこと好きになったから」

私の手を離し、そのまま白い方、クダリさんの頭を撫でてノボリさんは部屋を出て行った。
相手をしてくれるというのならば、聞いてみよう。

「クダリさん、ここは?」
「ここはライモンシティの地下にある娯楽施設サブウェイの中にある僕らの部屋!真は駅に落ちていたのを拾って来ちゃったの。落とし物は持ち主が見つかるまで僕ら駅長の所有物!だから真も見つかるまで僕らのもの!」

ここまできっぱり所有するぜ!って宣言されたのは初めてですよ。
クダリさんの瞳はきらきらと輝いていて、私が自分たちの所有物であることが嬉しくて嬉しくて仕方がないみたいに笑う。

「でももし持ち主が見つかっても、僕たち君を持ち主の所に返せる自信、もう無い!だから、見つからないように隠しておくね?」


監禁って事ですね、わかります。
まぁ、前の私の被害者は別の世界の人達だし、多分見つかることはないと思うけどなぁ。

「大丈夫!ノボリ、ああ見えてご飯作るのも、お洋服作るのも上手!」
「クダリさんは?」
「僕?僕はね、君達二人を守ってあげる!」

一言良いですか?

依存双子を見ているだけで楽しかったんですけとね、私!!


「…クダリさんが守ってくれるなら、きっと安心ですね」
「…!そう!安心!だからずっと僕たちと居てね!」


私を抱きしめる身体は見た目によらず大きく細かった。
恐る恐るその背中に手を回し、抱きしめ返すとクダリさんは一瞬身体を強ばらせて、更に力強く抱きしめてきた。

「ノボリの様子、見に行こう!きっと一人で寂しがってる!真、いい?」
「勿論」

抱き上げられると、クダリさんの腕の中にはもう二匹飛び込んできた。
そう、ヒトモシとデンチュラであります。
クダリさんはその二匹にも優しく笑いかけて、ノボリさんがいるキッチンだろう方向へと歩み始めた。




にこにこと笑うクダリに抱き上げられたままフローリングを歩く。クダリのヒタヒタという音だけが響いて、真の鼻に良い香りが届いた。

「良い香り」
「ノボリのご飯の香り!」

零れた呟きにクダリは嬉しそうに微笑む。


暖簾がかかったリビングの奥のキッチンに、エプロンをつけたノボリが食材を切っていた。
暖簾を潜ってきた二人と二匹を見て、目の奥の瞳を緩める。

「着ちゃった!」
「お腹空いてたんですね」

少しだけ口元を緩めて笑うノボリの額にクダリがちゅう、と口付けを落とす。

ついで、とばかりに真の額にも口付けを落とせば、ノボリも共に口付けてきた。

顔を真っ赤にした真がジト目で双子を見やればよく似た顔で笑った。


「お腹すきました!」
「おや、ではもうすぐ出来ますからテーブルに座って居てくださいね」


八つ当たり気味に呟けばノボリはつい、とテーブルを指差す。抱えられたままテーブルに近づき、そして椅子に座らされる。

ああ、懐かしいこの感じ。なにもさせてもらえないだめ人間まっしぐらな感じだこれ。


「私歩けますよ」
「僕がしてあげたいの!」
「…そうですか」

これは何を言っても無駄だ、と早々に諦める。ヤンデレに対してはいつ諦めるのかが生死を分けるのだ。

…勿論諦めすぎても死ぬことになるので注意が必要だが。

「さぁ、召し上がれ」



テーブルに運ばれてくる料理のなんと豪華なこと…。

「今日なにかの記念日だったんですか?」


って思わず聞いちゃうくらいだったよ。
二人はきょとんとしてふふ、と笑った。


「貴方が私達の所へ落ちてきたじゃないですか」
「特別な日だよね!」


「…はい」



真っ向にそんな言葉言われたら誰だって照れるでしょ?
私は顔を真っ赤にして俯いた。




お味の方も大変おいしかったです。







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