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泣き止んだ真をおろしたとき、両手の損傷に目をむいたレオンは慌てて消毒をして簡易手当てを施す。
柔らかい手の平だ、無理もないだろう。

仕方なしにもう一度バッドを持たせ、レオンは真を後ろに従え部屋を出た。
時折確認する真の表情はいつも不安気にしていて、ぎゅうとバッドを握り締めている。

そんな表情を見たいんじゃないなのに。困ったレオンは真の手を片方グリップから離させ、自らの手と繋いだ。驚いたように目を見開く真にくすくすと笑う。妹がいたら、きっとこんな感じ何だろう。


「真、家族は?」
「…居ない」

レオンの質問に一言で返したその返事にハッとした。死んだ、でも殺された、でもゾンビになってしまった、でもない返事に悪いことを聞いたと眉を下げる。
要するにこの少女はこの街から無事に脱出してもひとりぼっちで生きていくのだろうか。
そんな寂しい人生は…そんな悲しい人生を歩ませたくない。

そう思ったレオンの口からは、自然に言葉が零れた。


「じゃあ…俺と家族になろうか」

「え」


レオンの言葉に真の目は更に大きく見開かれた。


真は混乱する脳内をそのままにレオンを困ったように見上げる。
会話をしながらもレオンは歩みを止めずに足を進めていた。

さて困った。


前の世界でも家族になろうと言われて、その親切を受け入れたら父の側近達に非道い目にあわされた。

今は何故か元通りになっているこの両足だって、前の世界では完全に切り取られてしまっていたのだから。しかも、城下町へ無断で出掛けてしまっていたからという理由だった。一回くらい許せよ。
そうだ、あとでどうなっているのか確認しなくては。

ああ、困る。

けれどレオンは完全に善意で言ってくれているのだろう。握られている手をきゅ、と強く握り返して真はこちらを見下ろすレオンに笑顔を見せた。



「嬉しい」

「…よかった」


その笑顔にホッとしたレオンの耳にうめき声が聞こえてきた。真の手を離し、両手を銃に添える。
頼むぜ、相棒。
新しい家族が出来た途端に失うなんて、そんな残念なことにはしないでくれよ。
真の行き場を失った手が自分の服を掴んでいるという事実に、レオンは頬を緩ませた。

H&KVP70を構えたままじりじりと歩んでいく。

視界にゾンビを捉えた瞬間、レオンは発砲した。上手いこと額を貫いたのかゾンビはそのまま倒れ込む。
しかし残念ながらゾンビは一体だけではなくあと三体。  
弾を無駄に使うのは勿体ない。


ちらりと真の持っているバッドに目をやって、真からバッドを受け取る。代わりに短刀を手渡し、真に服を握らせたまま、レオンは小走りで駆け出す。
狙うは、足である。


小気味良い音をたててゾンビ達の足が折れる。

真と違うのは倒れ込んだゾンビ達の頭部を確実に破壊していっている所だろう。

後ろを走っている真の足を掴まれては溜まらないからな。

そう考えたレオンの思考は流石であるといえるだろう。

真の今の靴はただのスニーカーにジーンズ。これでは足首を掴まれたらそのままガブリといかれる確率がとても高いのだ。
ふと、レオンの目に女子更衣室が写った。

「好都合だ」
「?」

今の真の恰好では見てるだけで危なっかしい。




幸いにも真のサイズでも身につけることの出来るブーツがあった。ついでにロッカーの中に入っていたコートと手袋も身につけさせて一人満足そうに頷く。

「ゴーグルもするか?」

「…うん」

冗談のつもりで差し出したゴーグルを受け取った真はゴムの部分を調節し装着。
その後はネックウォーマーを口元まで引き上げた。


ふむ。


「これはこれでありだな。うん、可愛いぞ」

大人の真似っこしてるみたいで。


「っレオンさん!!」


余計な一言を付け加えたレオンに抗議の声を上げればレオンに甘い笑顔を向けられる。

う、とその笑顔にたじろいだ真に向かって一言訂正を求める。


「レオン"さん"?」


その一言でなんとなく察して欲しいのかを悟った真はネックウォーマーの下で頬を赤く染めるとおずおずとその名称を口にした。


「レオン…兄さん」

「よくできました」


くしゃりと頭を撫でたその大きな手に真は確かに安心感を得ることが出来たのだ。







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