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気がついたら、また知らないところに立っていた。先程まで居た和室とは違い、ここは洋室だ。…あんなに損傷していた傷が、全て再生治癒しているのは何故なのだろうか。深く考えるのは後にしたほうが良さそうだ。
かつて嗅いだことのある血臭と腐臭。そして聞こえるうめき声。
あぁ、もう。
真はがりがりと頭を掻く。ドアの向こうではカリカリとドアを引っ掻くナニかがいて、音はどんどん勢いを増している。何となくだけど、ここがどこかを理解した真は困ったように眉を寄せて立ち上がる。
今まで座っていたソファーから立ち上がるときに生じた音に、ドアを引っ掻く音は更に勢いを増した。
さて、困った。
「私戦闘補正ついてないのに」
とりあえず隠れるくらいのことはしてみようか?そう思った真は窓へ目を向けた。
バキリと音を立ててドアがひしゃげ、そこから我先にと三体のソレが侵入してきた。呻き、両手を突き出しながら、先程まで此処にいただろう獲物を探すが、獲物の姿はもうどこにも見えない。
そんなはずはない、だってさっきまで音をたてていたのだから。
ソレらは気づけない。ベッドの足に括り付けられた布で作られた紐が小さく開かれた窓から出ていることには。
「───…ギリギリセーフ…っ」
窓の外に真が立てるほどの足場が合ったことは、まさに幸運だったといえるだろう。額の汗を拭う真の手には一本の紐が。
昔テレビで見た知識を生かしてシーツでロープ擬きを作ってみたのだ。たかたが二階と地面の間だが、ロープがあるに越したことはない。因みに、部屋に置いてあったバッドも拝借してきている。
此処から見た先、地上にソレらの姿は見えない。
「…よし」
かすかに残っている知識。ぐっ、とシーツを握りしめ、ゆっくりと壁づたいに降り始めた。
少しの時間をかけて、漸く右足が地面につく。途中汗で手が滑ったのは本当に焦った。怖かった。
バッドも持ち直して、いざ。
舞台の一部であるラクーンシティの警察署へ。
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