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サンドリヨンは、東宮―――日本の首都である―――に根城を構えている。それは灰音さんの両親に当たる、サンドリヨンの初代頭領と、コント・ド・フェの設計者が東宮に住んでいたということももちろん要因のひとつなのだが、第一に、俺達の所属している組織は、東宮にある政府の眷属組織だということを忘れてはならない。
『政府』というワードに堅苦しさを覚えるかもしれないが、何てことはない、いわば日本のお偉いさんの集まりのことである。権力を持っている数十人の老若男女の集団であり、日本全体を間接的に支配していると言っても過言ではない。支配と言う言い方は少し御幣があるが、つまり政府は内閣と同意義の単語である。この日本は、一応政府を中心として動いており、政府を知らないものはいない。まあそんな感じである。
だがそれが善か悪かと問われると、また難しい。善とも言い難いし、悪と断言するほどの悪行を隠れてやっているわけでもない。政府が運営する会社の中に、異能を買うことの出来る夢のような会社もあるらしいが、その存在は賛否両論だ。政府の考えからすれば、異能者が疎まれることのないような社会、そして誰もが平等な世界を作るための第一歩として作られたが、喜ぶ人もいれば疎むものもいる。
サンドリヨンもまた、その会社と同じような作られ方だが、その存在は会社ほど大きくはない。よって滅多に「サンドリヨンの海音寺雫です」などと名乗ることもない。他人のためになりたい有志が集まっただけの小さな組織と言われてしまえばそれまでである。
人殺しの組織。偽善者の組織。悪になりきれなかった組織。
中途半端な位置で揺れているこの組織は、結局政府の犬でしかない。灰音さんの両親は、きっと政府に何かを救われてこの組織を作ったのだろう。父親が政府側の人間だったらしいことは灰音さんの会話から見て取れるので、母親がそれに賛同した形だろうか。
俺はこの組織が嫌いだ。
灰音さんを黒に染めていくこの組織が、嫌いだ。

「……」

俺は灰音さんが作ったかぼちゃのキッシュを美味しく頂いた後、またベッドに寝転び、一人悶々と考え事をしていた。


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