挑戦的な笑みを浮かべながら、右手を俺の方に差し出す彼女。それは自分を立たせろ、という意味の表れで、俺はそのか細く白い指が折れないように、そっと手を握る。彼女はその支えを頼りにベッドから立ち上がった。

「……?さっきまで顔が赤かったのに、綺麗に元通りね。どういう仕掛けなの、それ」

どうやら彼女も、俺の体の異変に気が付いたようで、目線は俺の頬の方に向けられる。そっと自分の頬をさすりながら、改めて熱が全く感じられないのを痛感する。

「実は俺にも分からないんです、思い当たる節が無くて」
「何それ、ちょっと不気味ね。何もないといいけれど」
「そうですね、今のところ何もないので治ってくれたならそれでいいんですけど。それに、頬を赤くしたのは頭領のせいでしょ」
「あれは正当防衛よ!」
「分かってますって。ちょっとからかってみただけですよ」
「本当に反省してる?」
「してます」

完璧にはしていなかったけれど、してないだなんて言って頭領の機嫌をもっと損ねてしまうと、買い物にも出てくれなさそうな気がして、そこは空気を読んだ。自分の誕生日だから言うことを聞いてあげる、と彼女は言っていたが、セクハラをされるのは予定の中に無かったのだろう。むしろあったら俺は頭領の純潔を疑う。

「あ、あのね、色々と考えてて思い出したんだけど、買い物の途中にちょっと寄りたいところがあるの。寄ってもいい?」
「いいですけど、どこに寄るんですか?」
「ふふ、内緒」
「どこかイケメンがたくさんいるホストクラブにでも寄ろうとしてるんじゃないでしょうね?」
「私がそんな余裕のある女に見える?海音寺くん、やっぱり反省してないでしょ?」

そう言いながら彼女は、治ったばかりの俺の頬を引っ張る。多少は痛かったが、表情筋を保つことに関しては容易に出来た。こうやって痛そうな顔をしないと、つまらないとすぐに引っ張るのをやめてくれるからだ。

「やーめた。相変わらず海音寺くんって、リアクションが面白くないわよね」
「頭領はリアクションがいちいち女の子らしくて可愛いですけどね」
「そういうリアクションが面白くないって言ってんのよ!バカ!いい加減学習しなさいよー!」

テンションが高いせいか(表情に出していないが)、頭領を口説く回数が増えてきた気がする。これではいけない。……おや、この心の中でのやり取り、前もやった気がする。頭領の言う通り、反省もしていないし学習もしていないらしい。やめたい。

「じゃあ、そろそろ行きましょ。何だかんだ言ってて結局行けませんでした、ってのは嫌でしょ?それに私、海音寺くんと出かけるの、楽しみにしてるんだから」


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