戒人の言葉で我に返った。最近自分の制御が緩みきっていることにようやく自覚し、自分の緩んだ口角を締め直す。どうやら最近、未来が変わると言うことがあまりにも嬉しかったようで、どこかで頭の螺子が外れてしまっていたのだろう。直さねば。

「仲良くなってない。頭領が勝手に俺にちょっかいを出してるだけだから」
「ひどい!私は名前を呼んだのよ、そっちだって名前、呼んでくれたっていいじゃない!」

むう、と子供のように頬をまた膨らませる彼女を流し目で見て、諌めるために彼女の頭をぽんぽん、と優しく撫でた。名前を呼ばなかったことは納得していなかったようだが、撫でられるのは嫌いではなかったようで、満更でもない顔でそっぽを向いた。

「戒人、この日、俺は仕事出来ないから、お前に俺の分までしてもらうことになるけど、大丈夫か?」
「ああ、それくらいお安い御用さ。別に借りだなんて思わなくてもいいよ、ただ、たまには僕と食事でも付き合ってくれよ?」

ぎこちない笑み――のように見えたが、きっとそれは気のせいではないのだろう。実際、最近は戒人と仕事のこと以外で話すことは少ない、距離を取っているわけでは無いのだが、避けられてると思っているのかもしれない。それも俺としては、どこか悲しいことではあった。

「そうだ、それなら二人の仕事が入ってない日に食事でも行こう。何なら、紬も誘って」
「本当かい?それは嬉しいなあ、頭領、今度僕たちが仕事入ってない日っていつです?」

嬉々として頭領に問う彼は、きっと純粋に俺から誘いを受けたことを喜んでいるのだろう。勿論俺が何か別の目的があって、食事に誘ったわけでは無いが、こうも喜ばれるとこちらが恥ずかしくなってしまう。

「全く、手間のかける部下たちね、悪いけど予定を記した手帳は今持ってなくて。自室なの。分かった時にまた二人に連絡しておくわ。心配しなくても、近いうちに休みはあったと思うから」
「ありがとうございます!」

戒人は笑いながら、頭領に頭を下げた。こういうところが彼は律儀で、俺と違って人付き合いがうまい、上司に可愛がられる性格の男なのだろうと思う。

「では、僕はこの辺で。雫、お幸せにな」

茶目っ気のある表情で、戒人はウインクし、部屋を出た。彼こそアイドルにでもなればいいのに、と客観的に思った俺だが、去り際に言ったその言葉は、少し意外だった。


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