短編集 | ナノ
14、変調

 社会人になって3年目の春。
私は長い風邪を引いている。微熱が続き、めまいも時々していた。
 それでも、私は病院に行かなかった。
 あの匂いと雰囲気が好きになれない。
 市販の薬と酒で完治させるつもりだった。
 一向に良くなる兆しが見えないある日、くるくると目が回り立っていられなくなってしまった。普段の風邪の症状とはちょっと違う気がする。
 猫は洋服ダンスの上に置いてあるエナメルのかばんを下に敷き、じっとそんな私を見ていた。
 いつもなら、つべこべうるさく言って来るのに、ニャーとも言わずに、じっと見つめているだけだった。
 母が騒ぎ始める。
 けど、あと一日だけ様子を見てからと、頑として病院に行くのを拒んだ。
 翌日、少し体が楽になった。
 今までなくなっていた食欲も出て来て、テレビを見る元気も出る。
 猫に話しかけようとした私は、目をひん剥いて驚いてしまう。
 歩きながら尿を漏らして行く猫を、私は捕まえる。
 切なそうな目で、猫は私を見た。
 「どうしたの?」
 「間に合わなかった」
 「見れば分かるわよ」
 「……ごめん」
 しおらしく謝る猫。
 その時、私は何も気が付かないでいた。
 

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